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そこで立ち上がったのが、アルバータ大学や他の大学からなる研究チームです。
今回の研究の目的は、運動が単なる生活改善の手段ではなく、がん治療の一環として再発や死亡のリスクを減らせるかを科学的に明らかにすることでした。
研究は2009年から2024年にかけて行われ、対象者はすべて結腸がんの手術と化学療法を終えた成人。
彼らを無作為に2グループに分け、1つは構造化された運動プログラムを3年間実施、もう1つは健康に関する資料を提供するのみという設計でした。
運動グループは、専門家の指導のもとで週に2時間半(例えば30分のセッションを5回)追加での運動を行いました。
患者の好みに合わせた中等度の有酸素運動(速歩、自転車、水泳など)が設定され、定期的なカウンセリングも受けました。
運動の内容は無理のないペースで徐々に強度を上げていく形になっており、実生活に取り入れやすいプログラムが組まれています。
では、大腸がん治療後の運動にはどれほどの効果があったのでしょうか。
この研究の最も重要な成果は、「運動が大腸がんの再発リスクと死亡リスクを確実に下げる」という事実です。
無病生存期間が5年だった人の割合は、運動グループでは80.3%だったのに対し、健康教育グループでは73.9%でした。
この差は一見小さく見えるかもしれませんが、統計的には有意で、再発や死亡のリスクを28%相対的に削減したことになります。
さらに、8年間の全生存率においても、運動グループは90.3%、健康教育グループは83.2%でした。
これは運動によって死亡リスクが相対的に37%低下することを示します。
この結果を受け、研究チームは次なる段階として「運動をがん治療の一部として正式に組み込む」方針を提案しています。
研究チームは次のように述べています。
「運動はもはやQOL向上のための道具ではない。
全ての患者が利用できる大腸がんの治療である」
大腸がん治療の未来に、患者自身の“足”で切り拓ける選択肢が加わったのです。
人生の再スタートを切る全てのがんサバイバーにとって、この発見は大きな希望となることでしょう。
参考文献
Post-cancer program lowers risk of death by 37%, 17-year study finds
https://newatlas.com/cancer/colorectal-cancer-exercise/
Structured exercise significantly reduces risk of colon cancer recurrence, global study finds
https://www.scimex.org/newsfeed/structured-exercise-significantly-reduces-risk-of-colon-cancer-recurrence-global-study-finds
元論文
Structured Exercise after Adjuvant Chemotherapy for Colon Cancer
https://doi.org/10.1056/NEJMoa2502760
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部