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ENTの特徴は、単なる明るさではなく、その「長さ」と「なめらかさ」にあります。
通常の超新星は数週間で暗くなってしまうのに対し、ENTは150日以上かけてじわじわと輝き続け、変動の少ない光度曲線を描きます。
この光の滑らかさは、他の突発現象――たとえば活動銀河核(AGN)の変動や磁場によるフレアとは異なる起源を示唆しています。
さらに、ENTの発生源はいずれも銀河の中心付近に位置しており、超大質量ブラックホールとの関係が強く示唆されました。
観測から得られたスペクトルには、水素やマグネシウムの広い輝線が含まれており、これはブラックホール周囲で起きる高温ガスの運動を示すサインでもあります。
ENTが発するエネルギー、発光期間、スペクトル、そして位置――どれを取っても、従来の爆発現象では説明がつかず、残された最も合理的な解釈が「高質量恒星の潮汐破壊(TDE:tidal disruption event)」だったのです。
つまりは、質量の大きな恒星が超大質量ブラックホールによって引き裂かれたことを意味しています。
では、ENTとは何を意味しているのでしょうか。
チームは、ENTの発生源が太陽の3倍以上の質量を持つ高質量恒星であり、それが太陽の1億倍を超える質量をもつ超大質量ブラックホール(SMBH)に接近して引き裂かれた結果であると結論づけました。
つまり、ENTは「巨大な恒星がブラックホールに飲み込まれる瞬間を宇宙スケールで観測した」現象だったのです。
このとき、恒星の物質の一部が重力によって引き寄せられ、光速に近い速度でブラックホールへと落下し、巨大なエネルギーを放出します。
その放出エネルギーは、核融合によって生まれる通常の恒星のエネルギーを遥かに超え、極端に明るく輝きます。
特筆すべきは、その持続時間です。
ENTのフレアは平均で約200日以上続き、超新星とは比べものにならないほどのエネルギーと寿命を持ちます。
これはブラックホールの質量が非常に大きいほど、引き裂かれた恒星の物質がゆっくりと落下し続けるためだと考えられています。
また、ENTが発生した銀河のホスト環境も興味深いものです。
これらの銀河は、今から約80億年前の宇宙に存在していたもので、現在よりもはるかに星形成が盛んで、ブラックホールも活発に成長していた時期にあたります。
このことはENTが単なる一過性の現象ではなく、初期宇宙におけるブラックホールの成長過程の重要な手がかりを提供していることを意味します。
さらに、ENTの発見数はまだわずか3例ですが、将来的な観測によって、ENTの大規模な調査が進めば、ブラックホールと銀河の共進化の謎に迫る鍵となる可能性があるとのことです。
参考文献
UH astronomers discover the biggest explosion since the Big Bang
https://www.hawaii.edu/news/2025/06/04/biggest-explosion-since-big-bang/
Astronomers detect most powerful explosions since Big Bang
https://www.popsci.com/science/most-powerful-explosion-in-universe/
元論文
The most energetic transients: Tidal disruptions of high-mass stars
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adt0074
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部