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調査開始当初から小学生男子の圧倒的な人気を誇っていたのは「プロスポーツ選手」。
この“王者”の座は10年経っても揺らいでいません。
ところが、そんな鉄板の職業の影で新しくランクインしてきたのが「YouTuber/VTuber」です。
2015年にはほとんど見向きもされていなかったこの職業が、2024年にはなんと第4位にまで上昇。
まさにデジタルネイティブ世代の象徴と言えるでしょう。
一方、小学生女子の人気職業は「店員(花屋・パン屋など)」や「パティシエ」などが根強いようです。
中学生になると、男子では「プロスポーツ選手」の次に「教員」が同率2位に。
女子では「看護師」や「保育士・幼稚園教諭」など、医療・教育系の職業が上位に食い込んできます。
さらに高校生になると、男女ともに「教員」が単独トップに。
「公務員」「エンジニア」「建築家」など、安定と専門性を兼ね備えた職業が一気に順位を上げてきます。
2024年の図表を見ると明らかですが、年齢が上がるにつれて、子どもたちの夢は徐々に「現実モード」へとシフトしていくようです。
ユーチューバーは小学生でピークを迎え、中学生で減少し、高校生ではほぼ姿を消す──そんな流れが如実に見て取れます。
こうした変化は、子どもたちが社会に触れる中で、自分の夢をアップデートし続けていることを物語っています。
2015〜2018年に小学5年生だった約3,000人を、2021〜2024年に高校2年生になるまで追跡したところ、35.0%の子どもたちは「同一系統の職業」を一貫して志望し続けていたことが判明しました。
つまり、10年近く同じ夢を持ち続けた“ぶれない”子どもたちが3人に1人もいたというわけです。
しかし、ここにちょっとした落とし穴が。
夢が一貫していた子どもたちは、「自分の進路について深く考えた経験」や「疑問を自分で調べた経験」が、夢を変更した子たちよりも少なかったのです。
一見、「夢を抱き続けること」は“いいこと”に思えるかもしれませんが、それは逆に新たな職業や可能性に出会う機会を失っているサインでもあるのです。
研究チームも次のように述べています。
「夢を持ち続けることは大切ですが、重要なのは早期になりたい職業を明確にすることではありません。
さまざまな選択肢に触れ、柔軟に進路を考えることも、これからの時代にはより重要になると考えられます」
そのため、家庭や学校では、さまざまな職業体験やロールモデルを紹介し、子どもたちが夢を柔軟にアップデートできる環境を整えることが求められています。
調査では「この1年で自分の進路について深く考えたことがあるか?」という質問が行われました。
そして他の質問との関連も分析されました。
その結果、「進路について深く考えた経験がある」子どもたち(経験あり群)は、「勉強が好き」と回答する割合が高く、「勉強しようという気持ちがわかない」と感じている割合は少ないと分かりました。
また、経験あり群は「ニュースに関心がある」「好きなことを自分で調べる」といった、より能動的な学習行動も多く見られました。
さらに彼らでは1日の平均勉強時間も長く、探究姿勢と学習量はセットで現れることが示唆されています。
もちろん因果関係が逆の可能性──つまり、「勉強が好きだから進路を考える」パターン──も否定はできません。
それでも、“将来を考える体験”が、子どもたちの学びにポジティブな影響をもたらしているのは間違いなさそうです。
では、子どもたちはどうして「進路について深く考える」ようになるのでしょうか?
図表によると、「尊敬できる先生がいる」と答えた子どもたちは、進路を深く考えた経験を持つ割合が高い傾向がありました。
また、「課題研究や探究学習に参加している」子どもたちも、進路意識が高いことがわかりました。
さらに、家庭では「両親とよく会話をしている」ことも、進路探究の促進要因になっているようです。
つまり、子どもたちの将来意識は、「大人との対話」と「探究体験」によって育まれる可能性があるということです。
ロールモデルの紹介やキャリア教育の機会を通じて、子どもたちが多様な将来像を描けるような環境づくりが大切だと分かります。
この10年にわたる調査は、子どもたちの人気職業には「教師」のような定番があること、また「ユーチューバー」のような新しく揺れ動く職業があることを示しました。
重要なのは、「1つの夢に縛られすぎない柔軟さ」です。
AI時代・デジタル時代には、いま存在しない職業が子どもたちの選択肢になることも十分予想されます。
時代とともに変わる社会、進化する職業に対応するには、子どもたち自身が自分の未来を“アップデート可能”なものとして捉える必要があります。
そのために必要なのは、家庭や学校が連携し、ロールモデル紹介や探究学習の場を増やすことです。
そのようにして職業を深く考えるよう促すなら、自然と学習意欲も高まっていくはずです。
キャリヤ教育はもはや“進路指導の一コマ”ではなく、子供の学び全体を支える基盤として扱うべきです。
本調査の知見はその再設計のヒントを提供するものとなりました。
未来は変えられる。だからこそ未来を見つめ、今をどう過ごすかが大切なのです。
参考文献
「進路を深く考える経験」は学習意欲を高め、学習行動を促進(PDF)
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400264920.pdf
[データ集]第8回 子どものなりたい職業について考えるデータ
https://benesse.jp/berd/special/datachild/datashu08.html
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部