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そんな中、サンパウロ大学の研究チームは、この無関心な態度に疑問を抱きました。
「本当にメスは鳴かないのか?我々が知らないだけなのではないか?」
こうしてチームは、世界中の文献を対象に、徹底的な再調査を始めます。
調査の対象となったのは、学術論文、学会発表、博士論文、そして一部のフィールドノートまで含めた約3000件におよぶ文献群。
対象言語も英語だけでなく、スペイン語、ポルトガル語、フランス語、ドイツ語など多言語にわたりました。
研究チームはそこから、メスのカエルが明確に鳴いていた記録だけを抽出し、 その種類、状況、行動背景を徹底的に整理していきました。
その結果、29の科に属する112種のカエルが、何らかの形で「メスも鳴く」ことが明らかになりました。
これは、全世界で既知のカエル種(約8000種)のわずか1.4%に過ぎません。
そして研究では、メスの鳴声にいくつかのタイプがあると分かりました。
文献の再分析から、メスの鳴き声には以下のような6つのタイプが存在することがわかりました。
この中でも特に注目すべきは、「アドバタイズメントコール」と呼ばれる自発的な鳴き声です。
これまではオス特有の行動とされてきましたが、一部の種ではメスも同様に鳴いていたことが確認されました。
また、ある種では、メス同士が「コールバトル」のように鳴き声で競い合う様子が観察されています。
このことは、カエル社会において「性による役割分担」が思っていた以上に複雑で、双方向のアピール戦略が存在する可能性を示唆しています。
そして前述したように、メスの鳴声について文献に記載されているのは、全体の種の1.4%です。
これは、「それだけの種でしかメスが鳴かない」と言う意味ではありません。
確認されていないだけで、実際にはもっと多くの種でメスが鳴いている可能性があります。
さらに、メスの鳴声に関して記した文献でさえ、その鳴き声の”意味”を実験的に確かめた研究は全体のわずか10%程度でした。
科学者でさえ、カエルのメスの鳴声についてほとんど知らず、その研究もなされていなかったのです。
こうした現状は、今後の研究における最大の課題であり、メスの鳴声を検証する様々な実験が必要とされていることを示しています。
また、現在世界中で絶滅の危機にあるカエルの保護調査も、オスの鳴き声を前提とした音響センサーに依存しています。
つまり、メスが鳴いても、それが検出されないために存在自体がカウントされていない可能性もあるのです。
今後はメスの声に耳を傾けることが、生態系モニタリングや保全活動の精度向上にもつながるでしょう。
今度カエルの声を聞いたら、ちょっと耳を澄ませてみてください。
もしかしたら、その中にひっそりと混じっている“メスの声”を聞き取れるかもしれません。
参考文献
Males to blame: We only know how 1.4% of female frogs sound
https://newatlas.com/biology/female-frog-sound/
We don’t know much about female frog calls because they’re being drowned out by males
https://www.scimex.org/newsfeed/we-dont-know-much-about-female-frog-calls-because-theyre-being-drowned-out-by-males
元論文
The ‘silent’ half: diversity, function and the critical knowledge gap on female frog vocalizations
https://doi.org/10.1098/rspb.2025.0454
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部