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しかし内容が期待外れだったり、展開が鈍かったりすると、だんだんと注意力が途切れ、脳は「デフォルトモードネットワーク(内省ネットワーク)」へと切り替わっていきます。
このデフォルトモードネットワークは、自分の内面に目を向け、過去の記憶を整理したり、未来の出来事を想像したりする役割を持っています。
いわば、私たちが「ぼーっとしている」ときに裏で稼働しているシステムなのです。
また「島皮質」という脳領域は、体内の感覚信号――たとえば「退屈だ」という感情――をキャッチして処理しており、「扁桃体」はそうした感情に関連する記憶を処理し、ネガティブな気分から逃れようとする動機づけを起こします。
こうした一連の反応は、決して無意味な「空白時間」ではありません。
むしろ、脳が休息と再調整を行っている大切な時間なのです。
現代人は日常生活をほとんど常に「オン」の状態で過ごそうとしています。
SNSやニュース、スケジュール管理、仕事、育児などなど――ありとあらゆる情報や刺激に囲まれ、ひと息つく「間(ま)」を失いつつありますし、きっちりと予定が詰まっているスケジュールこそが効率的であると考えがちです。
ところが、このような過剰刺激状態は「交感神経系」の過活動を招きます。
交感神経は「闘争か逃走か」のストレス応答をつかさどる神経で、本来は緊急時に一時的に活性化するものです。
しかしスマホ通知や締切、タスクの山に常時さらされている現代人の神経系は、過度な刺激が途切れることなく、慢性的なストレス状態=「アロスタティック・オーバーロード」に陥っている可能性があります。
この状態では、些細な刺激にも過敏になり、不安やイライラが高まりやすくなるばかりです。
そんな中で、退屈な時間は神経系を「リセット」するための自然な手段となります。
科学者たちは、適度な退屈が以下のようなポジティブな効果を持つと報告しています。
・創造性の促進:頭の中で自由に思考が巡り、アイデアが生まれやすくなる
・独立した思考の育成:外部の刺激に頼らず、自分の内側から興味を見つけられるようになる
・感情の安定化と自尊心の向上:何もない時間に自分の気持ちと向き合うことで、不安への耐性がつく
・デジタルデトックス:スマホから離れる時間が生まれ、即時報酬に依存しない習慣が育つ
・神経系の再調整:感覚的な入力が減り、不安感の鎮静につながる
つまり、退屈は「心の免疫力」を保つ鍵となるのです。
近年、世界中で不安障害やうつ症状が増加しています。
特に若年層において顕著であり、その背景には「常に刺激を求める社会」があると指摘されています。
私たちは1分たりとも退屈を許さないような生活を送ろうとしていますし、それこそ最良の人生であると思いがちですが、実は適度な退屈は、脳と心を回復させるために不可欠な「間(ま)」であると考えられるのです。
定期的にぼーっとすることは、決して怠けでも無意味でもありません。
それは脳科学的に見ると、創造性が芽生え、感情が整い、神経が休まるための神聖な空間であると捉えられます。
もし次に「退屈だな」と思ったときは、スマホを手に取って何らかの情報を摂取する前に、少しだけその退屈を味わってみてはいかがでしょうか。
その退屈な時間には、あなたの脳を癒す静かな力が、確かに存在しているのです。
参考文献
Being Bored Could Actually Be Good For Your Brain, Scientists Reveal
https://www.sciencealert.com/being-bored-could-actually-be-good-for-your-brain-scientists-reveal
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部