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一方、体内で合成可能な「非必須アミノ酸」もありますが、今回の研究ではその一つである「システイン」に注目が集まりました。
システインが代謝の中心にある重要な物質であり、代謝プロセスやエネルギーの貯蔵・放出に関係する他の多くの物質の生成にも関わっているからです。
そのため、システインの欠乏が引き起こす変化は、単なる栄養失調ではなく、全身的な代謝の変化につながると予想されたのです。
今回、研究チームは、遺伝子改変により「システインを体内で作れなくなったマウス」を用いました。
そして彼らにシステインを完全に除いた餌を与え、システインを完全にカットしました。
では、このマウスにはどんな影響が及んだでしょうか。
実験の結果、システインを完全に断ったマウスは、たった1週間で体重が平均30%も減少しました。
では、なぜ「システイン」がそれほどまでに体重に大きな影響を与えるのでしょうか?
それは、前述したように、システインが体内のエネルギー管理の要だからです。
システインが不足すると、マウスは炭水化物からエネルギーを得ることができなくなりました。
そして代わりに自身に蓄積された脂肪からエネルギーを得るようになったのです。
結果として、このマウスの体は猛烈な勢いで脂肪を燃やし、体重が急激に落ちていきました。
加えて注目すべきなのは、この体重減少が可逆的だったという点です。
元の餌に戻すと、マウスは2日以内に減少した体重の3分の2を取り戻し、4日以内には完全に元に戻りました。
そして、またシステイン無しの食事に変更すると、体重減少は再開されました。
研究チームは、この結果について、「システイン欠乏によって引き起こされる体重減少は、悪影響のない高い可逆性をもつかもしれない」と述べています。
この研究は、アミノ酸の制限が代謝にどのように影響するかを探る上で、極めて革新的な一歩と言えます。
とはいえ、これが私たちのダイエットに役立つかどうかはまだ分かりません。
今回の実験はマウスを対象としたものであり、人間への応用は未検証です。
しかも、システインを除いた食事が長期的に安全かどうかは、まだ分かっていません。
また研究チームは、「システインはほぼすべての食品に含まれているため、人間の食事からシステインを完全に排除することはほとんど不可能だ」と指摘しています。
今回のマウスのように、システインの生成を人間の身体で阻害することも、深刻な健康リスクをもたらす恐れがあるため難しいでしょう。
それでも研究チームは、今回の成果が減量に関して新たな視点と研究の道を開くものだと考えています。
将来的に「アミノ酸を標的とした新たなダイエット法」や「代謝疾患への治療アプローチ」へとつながる可能性を秘めているのです。
参考文献
Eliminating one amino acid leads to 30% weight loss in a week
https://newatlas.com/diet-nutrition/amino-acid-weight-loss/
Newfound Mechanism Rewires Cellular Energy Processing for Drastic Weight Loss
https://nyulangone.org/news/newfound-mechanism-rewires-cellular-energy-processing-drastic-weight-loss
元論文
Unravelling cysteine-deficiency-associated rapid weight loss
https://doi.org/10.1038/s41586-025-08996-y
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部