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ふたつめは「トップダウン型」です。
こちらは個人の性格や態度、楽観性やレジリエンス(精神的回復力)など、内面的な資質が幸福感を左右するという考えを指します。
世間には、お金がなく、友達や恋人がいなくても、幸せに生きている人がいます。
傍目から見ると不幸な境遇にも見えそうですが、本人たちはその暮らしに十分満足しているのです。
こうした人たちは、外的な要因ではなく、自分の内的な心のありようによって幸せを感じるのです。
トップダウン型に当てはまる人は、マインドフルネス瞑想や心理療法など、個人の思考や感情へ介入することで幸福感が高めやすくなるとされています。
そして3つ目が、これらの中間に位置する「双方向型(バイディレクショナル型)」です。
これは外的要因と内的要因が複雑に相互作用しながら、総合的な幸福を生み出すという考えであり、これに当てはまる人は、内的要因に働きかけても、外的要因に働きかけても、幸福を高める効果が期待できるとされています。
このように、幸福度の高め方には主にこの3つのルートが指摘されていますが、実際に世の中の人々がどれくらいこの3パターンに分類されるのかは、よく検討されていませんでした。
そこでチームは4万人以上を対象に、大規模調査を行ったのです。
今回の研究で、ベック氏らは「幸福においてどの理論が正しいのか」ではなく、「どの理論が誰に当てはまるのか」という視点に切り替えて解析を行いました。
分析対象は、オーストラリア、ドイツ、スイス、オランダ、イギリスの5か国の代表的な国勢パネルデータから抽出された40,074人。
全体的な生活満足度に加え、「健康」「住居」「収入」「人間関係」「仕事」という5つの領域に関する満足度の変化を、最大33年にわたり追跡しました。
その結果、次のような驚くべき事実が明らかになったのです。
最も多いのは、外的要因に影響を受ける「ボトムアップ型」と内的要因に影響を受ける「トップダウン型」で、共に約半数ずつが当てはまっていました。
一方で、対象者の約4人に1人は、生活領域の満足度と内的な心理状態が互いに影響しあう「双方向型」の傾向を示しました。
ところが残りの人々には、3つのパターンのいずれにも当てはまらず、幸福の感じ方の構造が不明瞭なケースも存在したのです。
これらの結果は、幸福に関する従来の平均的なモデルでは、個人の多様な実態を捉えきれていないことを示唆します。
チームは以上の結果を踏まえた上で、今後は「パーソナライズド・ハピネス(個別化された幸福)」という視点を導入し、全体をひとまとめにしてアプローチするのではなく、一人ひとりに合った幸福の高め方を模索すべきだと提言しています。
私たちはつい「誰でも〇〇すれば幸せになれる」といったシンプルな法則を探したくなります。
しかし今回の研究が示すように、幸福のかたちはやはり人それぞれです。
他人を羨んだり、誰かのやり方を真似するよりも、自分に合った幸福のかたちを見つけることが、真の幸せへのいちばんの近道なのかもしれません。
参考文献
The Secret to Happiness Lies Within You, Or Society — Or Both
https://www.ucdavis.edu/news/secret-happiness-lies-within-you-or-society-or-both
The Secret to Happiness Seems to Depend Upon You, Study Finds
https://www.sciencealert.com/the-secret-to-happiness-seems-to-depend-upon-you-study-finds
元論文
Towards a personalized happiness approach to capturing change in satisfaction
https://doi.org/10.1038/s41562-025-02171-z
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部