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分類上は初期の節足動物グループであるラディオドンタ類に属します。
このグループには、かの有名なアノマロカリス(体長約90センチ)も含まれており、モスラ・フェントニはその小型の近縁種とされています。
特に注目されたのは、モスラ・フェントニの体の後端にある多節の構造です。
最大で26の体節を持ち、これは過去に発見されたラディオドンタ類の中で最多だという。
研究者いわく、これはカブトガニやダンゴムシなどの現生の節足動物と似ており、体の後方にも呼吸器官を備えていたことを示すといいます。
チームはこの特徴がなぜ進化したのかは不明としていますが、モスラ・フェントニが特定の生息環境や行動特性に適応し、より効率的な呼吸を必要とした可能性があると述べています。
またモスラ・フェントニの化石は、他の化石ではめったに見られない内部構造の詳細まで保存されていました。
チームは化石から神経系や消化管、循環器系の痕跡を発見しました。 特に循環器系では「ラキュナ(lacunae)」と呼ばれる大きな内部空洞が明瞭に確認されました。
モスラ・フェントニは私たちのような動脈や静脈を持たず、今日の昆虫と同じく、心臓がラキュナに血液を送り込む「開放血管系」を持っていたようです。
ヒトを含む脊椎動物の血管系は、心臓から送り出された血液が動脈を通って、静脈に入り、そこから心臓に送り戻されます。
このように血液が決められた動脈と静脈、そしてそれらをつなぐ毛細血管の中を通るシステムを「閉鎖血管系」と呼びます。
対して、昆虫は動脈と静脈をつなぐ毛細血管がありません。
動脈から出た血液はそのまま開放されて、 直接的に体内の組織間を流れて静脈へと戻っていきます。
これを「開放血管系」と呼びます。
モスラ・フェントニのラキュナは体内からひれの先端にまで広がり、泳ぎながら効率よく酸素を取り込める仕組みだったと考えられています。
さらに驚くべきことに、モスラ・フェントニは他のラディオドンタ類と比べ、体のサイズに対して最も高いエラ面積を持っていました。
これは酸素の少ない環境や活発な遊泳生活への適応だった可能性があります。
このように、モスラ・フェントニは小さいながらも、精巧かつ驚異的な環境への適応戦略を持っていたようです。
この発見は、節足動物の進化の初期段階においてすでに高度な多様化が始まっていたことを物語っています。
参考文献
Manitoba Museum and ROM palaeontologists discover 506-million-year-old predator
https://www.eurekalert.org/news-releases/1083161
Ancient three-eyed ‘sea moth’ used its butt to breathe
https://www.popsci.com/environment/mothra-fossil/
元論文
Early evolvability in arthropod tagmosis exemplified by a new radiodont from the Burgess Shale
https://doi.org/10.1098/rsos.242122
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部