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さらに近年の研究で、ホーキング放射はブラックホールだけではなく、質量を持つあらゆる物体に起こっていることも示唆されています。
つまり、この宇宙に存在するすべての物質は、沸騰した熱湯のようにわずかながら「蒸発」していると考えられるのです。
これらを踏まえて、ラドバウド大学の研究チームは「宇宙で最も寿命の長い物質を対象に、ホーキング放射によって完全に消失するまでの時間を試算すれば、宇宙からすべての物質が消えるまでの残り時間がわかるのではないか」と考えました。
そうしてチームが着目したのが「白色矮星」です。
白色矮星は、星の進化の最終段階で生まれる非常に密度の高い天体です。
そしてこれまでの研究により、白色矮星は宇宙の中で最も寿命の長い物質であり、「最後まで生き残る星の残骸」であると言われています。
そこでチームは白色矮星がホーキング放射によってエネルギーを失い、最終的に消滅するまでの時間を理論的に試算することにしました。
実は過去の研究でも、白色矮星が寿命を迎えるまでの時間が試算されており、それは10¹¹⁰⁰年(10の1100乗年=1の後に1100個のゼロが続く年数)という途方もない時間であることが示されています。
しかしこの数字は、別のさまざまな要因をもとにした試算であり、ホーキング放射を考慮していませんでした。
チームは今回、ホーキング放射のみを考慮して、白色矮星が完全に蒸発し切るまでの時間を試算。
その結果、白色矮星の寿命は10⁷⁸年(10の78乗年=1の後に78個のゼロが続く年数)という、従来の予想よりも遥かに短い年数であることが示されたのです。
ただこれはホーキング放射のみに基づいた計算であり、他の未知の物理現象や宇宙の膨張などは含まれていません。
そのため「宇宙が完全な終わるまでの残り時間」ではなく、現存するすべての星や物質が消失する理論上の上限として捉えられています。
しかし、従来の予測値より遥かに短くなったとはいえ、10⁷⁸年も人間の寿命に比べるとイメージすら湧かないほど長い時間です。
とりあえず、宇宙から物質が完全に消えるまでには、人間も、人間が住む惑星もなくなっていることでしょう。
参考文献
Universe expected to decay in 10⁷⁸ years, much sooner than previously thought
https://phys.org/news/2025-05-universe-decay-years-sooner-previously.html
The universe may die sooner than expected
https://www.popsci.com/science/when-will-universe-die/
元論文
An upper limit to the lifetime of stellar remnants from gravitational pair production
https://doi.org/10.48550/arXiv.2410.14734
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部