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血管は多少動くものの、他の血管との相対的な位置はほぼ変わらないため、結果としてシワも毎回同じ位置・形で形成されていました。
さらにもう一つ、興味深い発見がありました。
指の中を通っている正中神経(median nerve)が損傷している被験者ではシワができなかったのです。
これはシワの形成が自律神経系によって制御されていることを強く示唆しています。
この発見は、法医学や生体認証技術などへの応用の可能性も秘めています。
長時間水に浸かった遺体の指紋識別や、特殊環境での指紋確認への応用が期待されています。
また近年の研究で、指のシワが単なる生理現象ではなく、進化の過程で獲得された適応的な特徴であることもわかってきています。
指が水に浸かると交感神経が血管を収縮させ、シワが形成されます。 これは水分による膨張ではなく、神経による積極的な制御による現象です。
ニューカッスル大学(Newcastle University)の研究では、シワのある指は濡れた物体をつかむ際の滑り止め効果を持つことが実験で示されています。
これはちょうど自動車のタイヤの溝が雨水を排出してグリップ力を高めるのと同じ理屈です。
人類の祖先が湿地帯や川辺などの濡れた環境で食料や道具を効率よくつかむために、この仕組みは進化的に有利だったと考えられます。
現代でも、濡れた食器や道具をつかむときに指のシワが役立っている可能性があります。
このように、指のシワは単なる偶然ではなく、「生存のための知恵」が形となったものだと考えられています。
今回の研究により、日常のなにげない現象である「指のシワシワ」に秘められた科学と進化のロマンが明らかになりました。
今後、お風呂場などで指にシワシワができた際は、それがいつもと同じパターンかどうか確かめてみると面白いかもしれません。
参考文献
Do your fingers wrinkle the same way every time you’re in the water too long? Research says yes
https://www.binghamton.edu/news/story/5547/do-your-fingers-wrinkle-the-same-way-every-time-youre-in-the-water-too-long-new-research-says-yes
元論文
On the repeatability of wrinkling topography patterns in the fingers of water immersed human skin
https://doi.org/10.1016/j.jmbbm.2025.106935
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部