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バルサ材は多孔質で軽量です。
研究チームは、そこに水分を強力に吸着する塩化リチウムと、太陽光を熱に変換する酸化鉄ナノ粒子を組み合わせました。
これにより、電力をほとんど必要とせず小型かつ軽量で繰り返し利用可能な大気水生成素材「WLG-15」を開発することに成功しました。
具体的には、まずバルサ材の立方体片を化学処理し、脱リグニン化。多孔質の木材スポンジにしました。
次に、この木材スポンジを塩化リチウム水溶液に浸漬し、乾燥させることで木材スポンジ内部の孔に均一に分散。
さらに酸化鉄ナノ粒子を用いたインクを木材スポンジ表面に塗布し、光吸収率の高い熱変換層(光を熱に変える層)を形成することに成功しました。
では、この工程で完成した新しいスポンジ素材は、どれほどの性能を秘めているのでしょうか。
実験の試作品はカップ型の容器で、底にWLG-15素材の小さなブロックを並べてセットしています。
カップのフタが開いていると大気中の水分を吸収し、透明なフタを閉めて日光を当てると水がカップ内に放出される仕組みです。
具体的には、夜の間フタを開けておくと、この素材が空気中の湿気をじっくりと吸い込みます。
朝になってフタを閉めると、太陽が昇るにつれて、ドーム型のフタが太陽熱による蒸発を促します。
そして素材から水分が蒸発すると、放熱プレートやソーラーパネルで駆動する冷却ファンによって結露が促され、水滴となってカップ底に落ちるのです。
室内実験では、この試作品が、温度25°C、湿度90%の環境で、1gの素材が空気中から約2mLの水を吸収。
太陽光下で10時間以内にほぼすべての水を放出したと報告されています。
小さな素材のブロック9つ(合計約7.2g)を使った実験では、約15mLの水を得ることができ、少量ながら実際に飲料水として利用できる水量を回収できたとのことです。
耐久性もある程度確認されており、-20℃で20日間保管した後も性能には変化がありませんでした。
また、10サイクル連続で使用した場合でも性能は安定しており、吸水効率の低下は12%未満でした。
この新しい新素材「WLG-15」は、従来の方式に比べ、外部からの電気を必要とせず動作する点が大きなメリットです。
また低コスト・環境負荷の低い設計であり、携帯性にも優れています。
そのため、災害時の緊急給水や乾燥地域でのオフグリッド給水、アウトドア活動での携帯型ウォーターサーバーとしての活用が期待されます。
研究チームは、湿度や温度、太陽光強度を監視するIoTセンサーを利用した自動制御システムを開発することで、集水サイクルをさらに最適化できると考えています。
「水も電気もない場所で、空気から飲料水が得られる」
そんな夢のようなアイテムが、部分的にとはいえ、既に誕生しているのです。
参考文献
Spongy new material pulls drinkable water from thin air in emergencies
https://newatlas.com/materials/spongy-drinkable-water-thin-air/
Smart spongy device captures water from thin air
https://www.rmit.edu.au/news/all-news/2025/may/spongy-water-harvester
元論文
Development and characterization of novel wood-based composite materials for solar-powered atmospheric water harvesting: A machine intelligence supported approach
https://doi.org/10.1016/j.jclepro.2025.145061
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部