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ところがUMa3/U1は、そのどちらにも当てはまらないように見えます。
直径20光年、星の数60個、太陽16個分の質量――これだけなら星団に分類されてもおかしくはありません。
しかし、もしこの天体がダークマターによって束ねられているとすれば、話は変わってきます。
というのも、UMa3/U1は「超低輝度矮小銀河(Ultra-Faint Dwarf:UFD)」の仲間である可能性もあるからなのです。
UFDは、非常に暗く、星の数が少ないにも関わらず、ダークマターに大きく支配されている非常に小さな銀河のグループです。
こうした天体は、宇宙初期に生まれた最古の星々を多く含んでおり、銀河形成の歴史を紐解く鍵を握っています。
UMa3/U1がそのような銀河であるなら、「Ursa Major III(おおぐま座III)」という正式名が与えられるはずです。
逆に星団であれば、UNIONSによる発見にちなんで「UNIONS 1」と呼ばれるといいます。
しかし現時点では、両者を合わせた「UMa3/U1」としか呼べず、そのこと自体が「銀河か星団かわからない」現状を指し示しています。
この分類不能な天体に対して、天文学者たちは2つのアプローチで検証を行いました。
最初は、天体内の星が互いに引き合う重力によってどれだけまとまりを保てるか、つまりバラバラにならずに存在し続けられるかをシミュレーションしました。
その結果、UMa3/U1は今後20〜30億年は安定して存在できることが示されました。
これは約110億年前に誕生したとされるこの天体の歴史から見ても、かなり長寿命な部類であり、この安定性は星団の構造の可能性を支持しているといいます。
次にチームは「質量分布の観測」を実施。
銀河であれば、ダークマターの存在によって星が中心部に密集する傾向があります。一方で星団は、質量が比較的均一に広がっているのが特徴です。
UMa3/U1の観測データは、星団モデルとおおむね一致しているように見えました。しかし、決定的な問題があります。
銀河の中心にはしばしば白色矮星や中性子星など、非常に暗いが質量の大きな“残骸”が存在するのですが、現在の観測技術では、それらを視認することが困難なのです。
つまり、中心部の真の質量分布を把握する手段が今のところないのです。
結局、現時点で得られた情報からは「UMa3/U1は安定した星団である可能性の方が高い」という結論に落ち着いていますが、「銀河である可能性も否定できない」という曖昧な立場のままなのです。
「完全に機能する銀河だが、天の川銀河の100万分の1サイズ――まるで米粒サイズの人間のようだ」とミシガン大学のエリック・ベル教授は表現しました。
UMa3/U1は、そんな“宇宙の米粒”のような存在です。
あまりに小さく、あまりに淡く、それでいて我々の「銀河とは何か」という概念に根本的な問いを投げかけてきます。
この天体が銀河であれ、星団であれ、あるいはその中間的な存在であれ、宇宙における構造の多様性を再認識させてくれる貴重な存在です。
参考文献
Did astronomers just discover the smallest galaxy in the universe?
https://www.livescience.com/space/astronomy/did-astronomers-just-discover-the-smallest-galaxy-in-the-universe
Astronomers Just Discovered the Tiniest Galaxy Ever Seen
https://www.vice.com/en/article/astronomers-just-discovered-the-tiniest-galaxy-ever-seen/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部