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なぜこんなにもゆっくりなのかというと、理由は2つあります。
ひとつはエネルギー効率です。
火星でできるだけ長く探査してもらうため、電力消費を抑える必要があり、そのために無駄な加速は避けています。
もうひとつは安全な走行です。
火星の地形は一様ではなく、柔らかい砂地や鋭い岩場、急な傾斜などが続きます。
ヘタに飛ばして転んだりすれば、起こしてくれる人もいないので、永遠に寝転んだままになってしれないのです。
写真に映った走行跡は、火星の激しい風によっていずれ消えてしまう運命にあります。
キュリオシティが向かっているのは、ゲールクレーター内に存在する「ボックスワーク構造」と呼ばれる興味深い地形です。
ボックスワークとは、蜘蛛の巣のように網目状に広がった岩の構造で、地球では洞窟などで見られます。
形成のメカニズムは、まず地下水が岩の割れ目を流れ、その中に鉱物を沈着させること。
長い年月をかけて周囲の岩が風化・侵食されると、鉱物だけが残り、細かい格子状の模様を形作るのです。
このような地形が火星に存在するということは、かつてその地下に豊かな水流があったことを示唆します。
しかも、地中という比較的暖かく湿潤な環境は、微生物が生存するにはうってつけの場所だった可能性があります。
つまり、もし火星に古代の生命が存在したのなら、その痕跡がこうしたボックスワーク構造の中に閉じ込められているかもしれないのです。
NASAジェット推進研究所(JPL)のチームは、探査ルートを緻密に設計し、毎日の走行を慎重に指示しています。
目の前には急な傾斜が立ちはだかっていましたが、キュリオシティはすでにその坂を登りきり、新たな科学調査地点への到達はあと1カ月ほどの見込みです。
ここではキュリオシティが化学分析を行い、岩石に含まれる鉱物成分を詳しく調べる予定となっています。
それによって「地下水が流れていた痕跡」や「生命活動に伴う化学的なサイン」が検出できる可能性があるのです。
微かな望みを胸に、キュリオシティは今日もひとり、赤い世界を進み続けます。
ゴールが見えても、誰も迎えてはくれません。
しかしその孤独な旅路を私たちは地球から確かに見守っています。
参考文献
NASA Reveals First-of-Its-Kind Image of Mars Rover Seen From Space
https://www.sciencealert.com/nasa-reveals-first-of-its-kind-image-of-mars-rover-seen-from-space
NASA Orbiter Spots Curiosity Rover Making Tracks to Next Science Stop
https://www.nasa.gov/missions/mars-science-laboratory/nasa-orbiter-spots-curiosity-rover-making-tracks-to-next-science-stop/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部