- 週間ランキング
それから「一人暮らし」も大きなリスク要因として指摘されてきました。
一人暮らしは、社会的孤立や精神疾患と関連することが多いです。
社会的孤立は、精神疾患、認知症、栄養不良、糖尿病、心血管疾患など、さまざまな健康上の悪影響と以前から関連づけられてきました。
また、孤独感や絶望感を強める要因となり、これらは自殺行動に至る心理的な前兆と考えられています。
特に先進諸国では、単身者の割合が年々増加しており、これが自殺率の増加とも関連しているとされています。
その一方で、一人暮らし・うつ病・不安症のそれぞれと自殺リスクの関連は知られていましたが、その3つが組み合わさった場合の影響は十分に研究されていませんでした。
研究チームはこの点を調査することにしました。
今回の研究では、20歳以上の韓国在住の成人376万4279人の大規模データが用いられました。
追跡期間は2009年から2021年までで、居住形態は国の登録記録をもとに分類され、5年以上一人暮らしを続けて登録されていた場合、「一人暮らし」と定義されました。
うつ病と不安症は、健康診断前1年間の健康保険請求データに基づく診断コードを用いて特定され、自殺による死亡は、国家死亡記録により判定されています。
データ分析の結果、全体の3%がうつ病、6.2%が不安症を有し、8.5%が一人暮らしで、調査期間中に合計で1万1648人の自殺者が出ていました。
そして、うつ病と不安障害の両方を抱えながら一人暮らしをしていた場合、自殺リスクは健康な人に比べて、なんと558%増加していたことがわかったのです。
一方で、うつ病のみを抱えて一人暮らしをしていた場合、自殺リスクは290%増加していました。
それから、不安症のみを抱えて一人暮らしをしていた場合、自殺リスクは90%増加していました。
さらに、うつ病や不安障害がないにもかかわらず、一人暮らしをしていた場合でも、他者と同居していて精神疾患のない人に比べて自殺リスクが44%増加していたのです。
他方で、他者と同居していてもうつ病を抱えている場合、自殺リスクは198%増加していました。
不安症のみを抱えて他者と同居している場合でも、64%のリスク増加が認められました。
また、すべてのグループにおいて、自殺率が最も高かったのは40歳から64歳の男性だったとのことです。
ただこれは韓国の方のみを対象としているので、同じ結果が日本にもそのまま当てはまるとは限りません。
それでも今回の研究結果は、精神疾患を抱えながら一人暮らしをすることの危険性を改めて認識させると同時に、精神的に健康であっても一人暮らしが自殺リスクを高める要因になることを明らかにした点で、注目に値します。
もちろん、一人暮らしでも日常的に社会交流があったり、性格的に一人暮らしが向いている人であれば、自殺リスクが高まることはないでしょう。
しかし一人暮らしをしていて、しょっちゅう寂しさや孤独を感じている人は、友人と定期的に会ったり、近場のコミュニティに参加したり、パートナーと一緒に住むことを選択した方がいいかもしれません。
参考文献
Living alone with depression and anxiety raises suicide risk by more than 500%, study of Korean adults suggests
https://medicalxpress.com/news/2025-04-depression-anxiety-suicide-korean-adults.html
元論文
Suicide Risk and Living Alone With Depression or Anxiety
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2025.1227
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部