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しかし、こうした栽培化の歴史の中で、バラの遺伝的基盤は非常に狭くなり、病害耐性や環境耐性といった重要な性質が犠牲になることもありました。
そこで注目されるのが、野生種の豊かな遺伝的多様性です。
これらを理解し活用することは、単に新たな美しい品種を生み出すだけでなく、絶滅が危惧される貴重なバラを守ることにもつながります。
そのために必要なのが、野生種と栽培種を含めたバラ属全体の正確な起源と進化の理解でした。
この問題意識から、北京林業大学の研究チームは本格的なゲノム解析に乗り出したのです。
研究チームは、『中国植物誌(Flora of China)』に記載されているバラ属の84%にあたる、80種以上・205サンプルを収集しました。
これらのサンプルをもとに、最新のゲノム解析と集団遺伝学的手法を用いて、祖先の形質をたどりました。
DNA中の保存性の高い遺伝マーカーを解析することで、バラ種間の進化と地理的な関係が明らかにしています。
その結果、すべてのバラがさかのぼる共通祖先は「黄色い一重咲き(※)の花」を持ち、7枚の小葉を持つ植物であったことが判明したのです。
(※ 花びらが一重に咲くこと)
現在、赤やピンクのバラは情熱や愛の象徴とされていますが、もともとは黄色い花だったという事実は、多くの人にとって意外に感じられるかもしれません。
また、この研究は「バラ属の起源が中央アジアにある」という従来の定説にも新たな視点をもたらしました。
実際には、中国の乾燥した北西部と温暖湿潤な南西部という、2つの異なる地域で多様化が進んだことが示されています。
このような発見は、今後のバラ育種に大きな影響を与えるでしょう。
野生種が持つ耐病性、香り、美しい色といった遺伝的資源を利用することで、気候変動に強く、育てやすい新たなバラの開発が期待されています。
また、色素形成に関与する遺伝子の進化過程も明らかになったことで、将来的には遺伝子操作や選抜育種によって、より自由な色彩パターンのバラを創り出す道も開かれるでしょう。
バラのゲノムを読み解く旅はまだ始まったばかりですが、この研究はその未来に大きな可能性を示すものとなります。
参考文献
Red, pink or white, all roses were once yellow says genomic analysis
https://phys.org/news/2025-04-red-pink-white-roses-yellow.html
“Genomic Analysis Reveals Rose Color Evolution”
https://www.lifetechnology.com/blogs/life-technology-science-news/genomic-analysis-reveals-rose-color-evolution?srsltid=AfmBOorjFekqaThOPDK-qWi2wWyhWkqaSz_yoobrLNG5dDorGJGLhYPM
元論文
Phenotypic and genomic signatures across wild Rosa species open new horizons for modern rose breeding
https://doi.org/10.1038/s41477-025-01955-5
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部