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「早歩きをすると健康に良い」と聞いたことがある人は多いかもしれません。
これまでにも、早歩きが心筋梗塞や高血圧、糖尿病の予防と関連していることは複数の研究で示されています。
しかし心臓の拍動リズムが乱れる「不整脈」に関しては、具体的な関係がはっきりとは分かっていませんでした。
心房細動や心室性不整脈といった異常は、重症化すると心不全や脳卒中、突然死の原因にもなりうる深刻な疾患です。
そこで今回、研究チームは「歩く速さがこうした不整脈の予防につながるのか?」という素朴ながらも重要な疑問を抱きました。
研究では、自己申告による歩行速度に加えて、活動量計を用いて実際の歩行スピードも測定しました。
さらに歩行時間や生活習慣、持病の有無なども統計的に調整したうえで、歩行速度と不整脈リスクの関係を明らかにすることを目指しました。
チームは、英国バイオバンクに登録されている42万人以上の中高年を対象に、平均13年間の追跡調査を実施しました。
歩行速度は以下の3段階に分類されました。
・遅い(時速4.8km未満)
・普通(時速4.8〜6.4km)
・速い(時速6.4km以上)
こうした歩行速度は、アプリなどを使うと自分でも計測することができます。
そしてデータ分析の結果、追跡期間中に9%にあたる3万6574人が不整脈を発症していましたが、歩く速さが増すごとにそのリスクは明らかに低下していたのです。
具体的には、遅いペースで歩く人に比べて、
・普通の速さの人は、不整脈のリスクが35%減
・速歩きの人は、不整脈リスクが43%減
という大きな差が見られました。
特に不整脈の一種である心房細動では、速歩きの人においてリスクが46%も低下していました。
また、歩行時間を測定した8万人以上のサブグループ分析では、速いペースを維持して歩く時間が長い人ほど、不整脈のリスクもより低くなることが示されました。
研究者たちは「この知見は生物学的にも合理的であり、手軽にできる健康促進の手段として『歩く速さ』に注目すべきだ」と強調しています。
運動というと身構えてしまう人も多いかもしれませんが、特別な器具もウェアも不要な「歩く」という行動が、実は心臓の健康を守る鍵だったのです。
毎日の通勤や買い物のとき、少し速めに歩くことを意識するだけで、心臓は将来の病気から守られるかもしれません。
参考文献
Brisk walking linked to lower risk of heart rhythm problems, study finds
https://www.theguardian.com/society/2025/apr/15/brisk-walking-linked-to-lower-risk-of-heart-rhythm-problems-study-finds
Brisk walking pace and time spent at this speed may lower risk of heart rhythm abnormalities, research suggests
https://medicalxpress.com/news/2025-04-brisk-pace-spent-heart-rhythm.html
元論文
Association of self-reported and accelerometer-based walking pace with incident cardiac arrhythmias: a prospective cohort study using UK Biobank
https://doi.org/10.1136/heartjnl-2024-325004
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部