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2015年の脳画像研究によると、ポルノ動画を頻繁に視聴する男性の脳では、報酬系に関与する領域の灰白質が減少していることが明らかになりました。
この部位は、やる気や意思決定に関係しているため、視聴のしすぎが衝動性や依存性を高める可能性があると考えられています。
さらに前頭前野と報酬系の結びつきが弱まることで、かつて得られていた快楽を得るにはより刺激の強いコンテンツが必要となり、エスカレートする傾向も確認されています(JAMA Psychiatry, 2014)。
また2016年の研究では、49%の人が「以前は興味がなかった、あるいは嫌悪していたようなジャンルに手を出すようになってしまった」と回答していました(Computers in Human Behavior, 2016)。
こうした脳内の変化は、現実のパートナーとの関係にも悪影響を及ぼすことがわかっています。
例えば、ポルノの頻繁な視聴者は、恋人との性的関係に対する満足度が低くなりやすく、浮気率や感情的な距離の増加、信頼の喪失といった問題が報告されているのです。
ある研究では、女性の多くが「パートナーのポルノ視聴により性行為の頻度が減った」と回答し、男性側も「現実のパートナーとの性行為で興奮しづらくなった」と述べています。
また、18〜35歳の若年層を対象とした2021年の研究では、20%以上の参加者が「勃起機能に問題がある」と答えており、これは一般的な同年齢層の有病率より高い数字です。
ポルノの使用は、多くの場合「恥ずかしい」「誰にも言えない」といった感情を伴います。
しかし問題を抱えるカップルがそのまま沈黙していては、関係性の悪化は避けられません。
大切なのは「オープンに話し合い、問題に一緒に取り組む姿勢だ」と研究者らは指摘します。
信頼できる友人や家族とこの問題について話すことは、恥の感情をやわらげ、心理的なハードルを下げる効果があります。
また、専門のセラピスト、特にポルノ使用に関する問題に詳しい有資格のカウンセラーの支援を受けることが推奨されます。
同じ悩みを共有する人々とのピアサポートグループも、孤独感を和らげ、回復への大きな助けとなります。
これと別に、最近は若年層への影響も深刻です。
2022年の調査によると、13〜17歳の73%がポルノを視聴した経験があり、そのうち54%は13歳未満、15%は10歳以下での接触でした。
彼らのうち58%は「偶然見てしまった」と答えており、アクセスのしやすさが無防備な状況を生んでいます。
若年層はまだ脳が発達途中であり、神経可塑性と呼ばれる急速な神経接続の変化が思春期に起きています。
この段階で過激な性コンテンツに触れることは、性行動や価値観に長期的な悪影響を与えるおそれがあります。
2021年にヨーロッパで行われた大規模調査では、14〜17歳の約11,000人のうち、ポルノに接触していた若者は、接触していない若者に比べて、攻撃的・ルール違反的な行動をとる傾向が高いことが確認されました。
これらの事実は、家庭でのネット使用に対する親の関与が不可欠であることを物語っています。
性的コンテンツを見ること自体は悪いことではありません。
しかし過剰に見すぎると、脳の認知機能に異常が起き、日常生活にも支障が出始めるかもしれないのです。
参考文献
Pornography may be commonplace, but a growing body of research shows it causes lasting harm to the brain and relationships
https://theconversation.com/pornography-may-be-commonplace-but-a-growing-body-of-research-shows-it-causes-lasting-harm-to-the-brain-and-relationships-249725
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部