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ここで注目されたのが、「オートファジー(自食作用)」「アポトーシス(細胞死)」「熱ショック応答」、そして「炎症反応」という4つの細胞機構です。
オートファジーとは、細胞が不要なタンパク質や壊れた細胞小器官などを分解・再利用することで、細胞内環境を健全に保つ仕組みです。
これはストレス環境下や飢餓状態などでも活性化し、細胞の生存に貢献します。
一方、アポトーシスは細胞が計画的に死ぬことで、異常な細胞が周囲に悪影響を及ぼすのを防ぐ機構です。
これは過剰でも不足でも問題がある、きわめて繊細なバランスで制御されています。
また、熱ショック応答とは、温度ストレスなどによりタンパク質が損傷を受けた際に、それらを修復・安定化させる「熱ショックタンパク質(HSP)」を生成して細胞を守る反応です。
さらに、炎症反応とは、身体が損傷や異物に対して示す防御的な反応の一つです。
炎症は本来、感染や外傷から体を守るために必要な反応ですが、過剰に起きると慢性疾患の原因にもなりかねません。
研究者たちは、これら4つの反応が冷水刺激によってどのように変化するのかを、実験初日、中日、最終日にわたって追跡しました。
研究の初日、冷水に浸かった後の細胞では、タンパク質p62が増加しており、オートファジーが十分に機能していないことが示されました。
また、アポトーシスの指標であるカスパーゼ-3の活性化や、炎症マーカーであるTNF-αの増加も確認され、冷水浴が細胞に大きなストレスを与えていたことが明らかになりました。
しかし、4日目、7日目と日数を重ねるごとに変化が見られました。
オートファジーに関連したタンパク質の発現が増加し、p62は減少傾向を示しました。
これにより、細胞が内部の損傷を処理する能力を高めていたことがわかります。
さらに、アポトーシスや炎症の反応も次第に落ち着いていきました。
このことは、繰り返される冷水刺激に対して、細胞が適応していく過程を示しています。
そして研究チームは、冷水浴を7日間行った後の細胞は、行う前と比べて、低温環境でもオートファジーがより活発に働き、アポトーシスは抑えられていることを発見しました。
また、熱ショックタンパク質の増加も見られており、細胞は冷水刺激への耐性を獲得していたことも分かりました。
今回の研究は、わずか1週間の冷水浴でも、細胞レベルでの「訓練効果」が現れる可能性があることを示しています。
研究チームは、「体の適応の早さに驚きました。寒冷暴露は、病気の予防に役立つかもしれませんし、細胞レベルで老化を遅らせる可能性さえあります」と述べています。
もちろん、この研究にも限界はあります。
対象は10人の健康な若年男性に限定されており、女性や高齢者、既往症を持つ人にも同様の効果が見られるかどうかは今後の課題です。
また、継続的な効果がどのくらい持続するのか、より長期間の研究も必要でしょう。
それでも今回の研究は、冷水浴に「単にスッキリする」ことや「運動後の回復に役立つ」といった以上の効果があることを示唆するものとなりました。
体に冷たい刺激を与えることは、細胞にとって思いのほか良いトレーニングになり、体の細かな点を調整するのに役立つのかもしれません。
参考文献
Cold plunges actually change your cells, uOttawa study finds
https://www.uottawa.ca/faculty-health-sciences/news-all/cold-plunges-actually-change-your-cells-uottawa-study-finds
Cold plunges kick off cellular clean-up, could treat aging &disease
https://newatlas.com/health-wellbeing/cold-water-immersion-autophagy/
元論文
The Effect of 7-Day Cold Water Acclimation on Autophagic and Apoptotic Responses in Young Males
https://doi.org/10.1002/adbi.202400111
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部