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研究チームは今回、世界中の高齢者を対象にした136本の論文を精査し、そのうち57件の研究から得られたデータを統合。
対象者は合計41万1430人で、平均年齢は約69歳、追跡期間は平均6年から最長18年に及びました。
その結果、デジタル機器を日常的によく使用している高齢者は、そうでない人に比べて、認知機能障害の発症リスクが最大58%も低く、認知機能の低下速度も26%遅いことが判明したのです。
さらにこの傾向は、性別や年齢、教育歴、健康状態、社会的支援の有無などを調整した後でも有意に保たれました。
注目すべきは、デジタル機器の使用が「受動的」である場合(例:動画視聴だけ)は効果が薄く、「能動的」に使っている場合(例:メール作成、SNSでの交流、地図アプリの活用など)により強い効果が見られたことでした。
では、なぜデジタル機器の使用は高齢者の認知機能の低下を予防できるのでしょうか?
研究チームは、デジタル機器の使用による「脳の退化」ではなく、「脳の活性化」の側面に注目しました。
というのもスマホやタブレット、パソコンの操作は、ある程度の学習と注意、そして記憶力を必要とする行為です。
そのため、高齢になってから触れるテクノロジーは、彼らにとってチャレンジングであり、自然な脳のトレーニングになっている可能性があります。
研究主任で認知神経科学者のマイケル・スカリン(Michael Scullin)氏はこう話します。
「中高年の方々の多くが『このパソコンには本当にイライラする。覚えるのが大変だ』との思いを抱いていますが、それはまさに認知的な負荷を感じている証拠であり、たとえ楽しく感じなくても、脳には良い刺激となっている可能性があるのです。
加えて、テクノロジーは、たとえば定期的に新しいソフトウェアのアップデートを要求したり、インターネットの接続不良を解決したり、ウェブサイトの広告をスルーしたりといった『絶え間ない適応』を求めてきます。
こうしたタスクが、問題解決能力や情報処理、記憶の活用といった脳の多様な機能を刺激すると考えられるのです」
スカリン氏は、テクノロジーの負の側面(たとえば、運転中の注意散漫や対面コミュニケーションの減少)を認識しつつも、高齢者におけるデジタルツールの健全な活用は認知的な健康にとって有益であると強調します。
「もしあなたの親や祖父母がテクノロジーを避けているのなら、その考えを見直してみてください。
スマートフォンやタブレットで、写真アプリ、メッセージアプリ、カレンダーアプリの使い方を覚えると、脳にいい刺激となるかもしれません。
まずはシンプルなことから始めて、学ぶ間はとにかく忍耐強くサポートしてあげてください。」
今回の研究は「高齢者がデジタル機器を使うことはむしろ脳に良い」という、これまでの通説とは真逆のメッセージを届けるものでした。
もちろん、使いすぎや受動的な利用には注意が必要ですが、写真を送ったり、カレンダーアプリで予定を管理したりといった日常的な活用が、脳にポジティブな刺激を与えてくれるかもしれません。
参考文献
Digital Dementia: Does Technology Use by ‘Digital Pioneers’ Correlate to Cognitive Decline?
https://news.web.baylor.edu/news/story/2025/digital-dementia-does-technology-use-digital-pioneers-correlate-cognitive-decline
Older people who use smartphones ‘have lower rates of cognitive decline’
https://www.theguardian.com/science/2025/apr/14/older-people-use-smartphones-lower-rates-cognitive-decline
元論文
A meta-analysis of technology use and cognitive aging
https://doi.org/10.1038/s41562-025-02159-9
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部