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彼は小学生の頃、母親に連れられてカリフォルニア工科大学の一般向け天体観望講座に参加して以来、天文学に興味を抱くようになりました。
それからAIや数学にも才能を発揮し、地域の教育プログラムで、中学生ながら大学レベルの数学や計算機科学を修得したといいます。
そして2022年の夏、パズさんはカリフォルニア工科大学(Caltech)の天体観測プログラムに参加し、膨大なNEOWISEのデータから未知の変光天体を見つけ出すAIモデルの開発に挑んだのです。
このプログラムでは、天文学者のデイビー・カークパトリック氏がパズさんのメンターを務めました。
「デイビーに出会えて本当に幸運でした」とパズさんは語ります。
「最初に話した日を覚えています。私は『この経験から論文を出したいと考えている』と話しました。6週間という短期間にしてはかなり大きな目標です。
しかし彼は止めませんでした。『よし、それについて話してみよう』と言ってくれました。
彼のおかげで、思う存分学べる環境がありました。私が科学者としてここまで成長できたのは、そのおかげだと思います」
パズさんはNEOWISEのデータに取り組むにあたり、機械学習や波形解析、さらには高速なフーリエ変換などの高度な技術を独学で学び、AIに取り入れました。
こうして誕生したのが、彼の開発したAIモデル「VARnet(ヴァーネット)」です。
VARnetは、光度曲線と呼ばれる「星の明るさの時間変化」を高速で解析し、特徴的な変動パターンをAIが自動で分類できるように設計されています。
特徴的なのは、従来の天文学的手法よりもはるかに高速で、1天体あたり平均52マイクロ秒(0.000052秒)で解析できるという点です。
パズさんはこのAIをNEOWISEの実データに適用し、従来は見落とされていた未知の変光天体150万個を発見することに成功しました。
その中には、既存のカタログには載っていない連星系や超新星候補、さらには銀河の中心にある活動的なブラックホール(活動銀河核:AGN)なども含まれていました。
また、彼のAIはただの発見にとどまらず、すでに知られていた変光星も正確に検出できることが確認されており、信頼性の面でも高い評価を受けています。
この成果は、NEOWISEのデータすべてを用いた「全天変光天体カタログ」の作成へとつながるものであり、今後の天文学研究にとって画期的な一歩となるでしょう。
また「このモデルは天文学だけでなく、時間的に変化するあらゆる現象の解析に応用できる」と彼は語ります。
その応用例として、株式市場のチャート解析や大気汚染のモニタリングなどにも展開が期待されています。
パズさんは現在、まだ高校に通いながらも、パズ氏はカリフォルニア工科大学の職員として働いているとのことです。
今回の研究は「高校生が自作のAIで宇宙を解析し、未知の天体を大量発見する」という映画のような話が、現実になった例です。
天文学、AI、教育の可能性が見事に融合したこの成果は、科学への情熱と学びの力が世界を動かすことを教えてくれます。
参考文献
Exploring Space with AI
https://www.caltech.edu/about/news/exploring-space-with-ai
元論文
A Submillisecond Fourier and Wavelet-based Model to Extract Variable Candidates from the NEOWISE Single-exposure Database
https://doi.org/10.3847/1538-3881/ad7fe6
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部