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そんな中、フランスのエクス=マルセイユ大学の研究者たちは、指タッピング(指トントン)によるリズムプライミング効果を確かめたいと思いました。
「この指トントンによっても脳のリズムを整えることができるなら、会話への同調率が高まり、言葉の理解力が上がるのではないか?」と考えたのです。
研究チームはこの仮説を検証するため、健常な大人(数十人)を対象にした実験を行いました。
実験では、ノイズの混じった会話音声を参加者に聞かせる状況を作り、その際に音声のリズムと同期するように指をリズミカルに叩かせることにしました。
ちなみに、指トントンの動作は自由なリズムではなく、音声(音の強弱やリズム)にできるだけ合うように指導されました。
音声には音節や単語ごとに異なるリズムがあるため、脳をこのパターンに合わせるようにすることで、リズミカルな言語を適切に処理できる可能性があると考えたのです。
実験は3種類行われましたが、結果は、研究者たちの仮説を見事に裏付けるものでした。
ノイズの多い環境では、音声のリズムと指のタッピングを同期させていた参加者の方が、会話の内容を正確に理解できる確率が有意に高かったのです。
そしてある実験では音楽のビートも確かめられました。
しかし、指トントンせずに音楽のビートを聞くだけでは、この効果がそれほどあらわれませんでした。
このことは、能動的に指でリズムを取ることが、言語理解を高める鍵であることを示唆しています。
研究チームは、リズム運動によって脳内のタイミング処理が音声入力と同期しやすくなり、言語情報のピックアップ効率が上がると説明しています。
つまり「聞き取りにくい…」と感じるような場面でも、音声のリズムに合わせて指を軽くトントンするだけで、脳が“話の流れ”を掴みやすくなるというわけです。
とはいえ、今回の研究にはいくつか限界があります。
例えば、サンプル数が大きくないこと、参加者たちは若いフランス語話者に限られていたことなどです。
それでも今回の研究結果は、教育現場や語学学習、高齢者の聞き取り支援など、さまざまな分野での可能性を秘めています。
「うざい癖」だと思っていた指トントンは、脳が外の世界とタイミングを合わせようとする“リズムの橋”だったのです。
もし今度、雑音の中で誰かの話を聞くタイミングがあれば、「うざい」と思われるのを覚悟で、指トントンしてみてください。
相手の話を聞き取りやすくなるかもしれません。
参考文献
Brainpower boosted by tapping out a specific rhythm, study finds
https://newatlas.com/learning-memory/tapping-finger-hearing-comprehension/
元論文
Moving rhythmically can facilitate naturalistic speech perception in a noisy environment
https://doi.org/10.1098/rspb.2025.0354
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部