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ニシサンタクルスゾウガメはガラパゴス諸島を原産地としていますが、現在ではすでに国際自然保護連合(IUCN)によって「深刻な絶滅危惧(Critically Endangered)」に分類されています。
アメリカの動物園に飼育されている個体数も50匹に満たないのが現状です。
その背景には、人間による乱獲、外来種による捕食、生息地の破壊など、複数の要因が絡んでいます。
今回の繁殖プロジェクトは、ニシサンタクルスゾウガメの絶滅を防ぎ、種の保護活動を進めるための一環として行われました。
今回の繁殖は、偶然ではなく綿密に計画された科学的試みの成果です。
2020年にアブラッツォがフィラデルフィア動物園にやってきた際、すでに種の保存計画に基づくペアリングが考慮されていました。
その後、2021年の寄付キャンペーン「Giving ZOO Day」により、マミーが安全かつ快適に産卵できるような新しい巣材(砂や土)が整備され、環境が整えられていきました。
2022年には動物福祉チームと環境教育チームが協力し、アブラッツォの行動パターンを詳細に観察するエソグラム(行動記録表)を作成。
その行動傾向や活動時間帯などを分析し、繁殖のタイミングを見極めるための準備が進められていました。
またガラパゴスゾウガメの性別は、卵のふ化時の温度によって決まります。
28℃未満ではオス、29.5℃以上ではメスが生まれるという性決定メカニズムがあり、今回は8個ずつを異なる温度で管理しました。
2023年以降、マミーは4回の産卵を経験しましたが、最初の3回はふ化に至りませんでした。
しかし2024年11月に産んだ16個の卵のうち、4つが2025年2月末にふ化。
ところが、その4つは温度調節をしたにもかかわらず、すべてメスとして生まれていました。
フィラデルフィア動物園でこの種のリクガメがふ化するのは、開園から150年以上の歴史の中で初めてとのことです。
同園のCEOであるジョ=エル・モガーマン(Jo-Elle Mogerman)氏は今回の歴史的な快挙について、こう話しています。
「これはフィラデルフィア動物園の歴史において非常に重要な出来事です。
このニュースを地域の皆さん、そして世界中の方々と共有できることをとても嬉しく思います。
マミーが動物園にやってきたのは1932年のこと。つまり、この92年間に当園を訪れた人の多くが、彼女に出会っている可能性があります。
そしてフィラデルフィア動物園の今後のビジョンは、新たに生まれた子ガメたちがまた100年後も健全な地球のもとで繁栄し続けられる環境を整えることです」
赤ちゃんたちは現在、どの個体も元気にすくすくと成長しており、4月23日から同園で一般公開を始めるとのことです。
参考文献
‘Seemingly impossible’: Endangered tortoise becomes first-time mom at about 100 years old
https://www.livescience.com/animals/turtles/seemingly-impossible-endangered-tortoise-becomes-first-time-mom-at-about-100-years-old
Four Critically Endangered Galapagos Tortoises Hatch at Philadelphia Zoo, First Successful Hatching of this Species in Zoo’s History
https://www.philadelphiazoo.org/news/four-critically-endangered-galapagos-tortoises-hatch-at-philadelphia-zoo/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部