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心拍もわずかにしか打たなくなり、脳波もほとんど平坦になって、昏睡よりもさらに低い活動レベルになるのです。
傍目から見れば死んでいるようにしか見えませんが、リスはちゃんと生きています。
実際にリスは冬眠中ずっと寝ているのではなく、定期的に短時間だけ急に目を覚まして、老廃物を排出したりするのです。
しかしそれが終わると、またすぐに冬眠に入ります。
さらに驚異的なのは、これほどの低代謝状態でも筋肉量をほとんど失わないことです。
脂肪は燃焼されますが、筋肉は維持されたままになります。
これは宇宙飛行士が微小重力下で筋萎縮を防ぐために毎日何時間も運動していることを考えると、非常に特筆すべき点です。
また、リスは脳や心臓などの重要な器官も、低温や代謝の低下からしっかり守っています。
加えて、冬眠中のリスは体内の炎症反応が抑えられ、脳の損傷や放射線への耐性も高まっていることが示されています。
これらの性質は、宇宙空間での人工冬眠に役立つだけでなく、人間の病気や外傷治療にも応用できる可能性があるのです。
では、リスの冬眠のメカニズムは今どこまで解明できているのでしょうか?
リスの冬眠能力は、私たち人類にも応用できるのではないか。
そう考えた科学者たちは以前から、リスの体内で何が起きているのかを詳細に調べてきました。
たとえば、米アラスカ大学の研究チームは、リスの脳内のアデノシン受容体を刺激することで、冬眠を人工的に誘導できることを突き止めたのです。
この方法は、ラットやブタでも体温を下げるのに成功しており、「人工冬眠」への大きな第一歩といえます。
また米イェール大学の研究室では、10人以上の研究者がそれぞれ異なる角度からリスの冬眠を研究しています。
最近の研究では、視床下部で甲状腺ホルモンが欠乏することで、冬眠中のリスの食欲が完全に消失する仕組みが解明されました。
また、バソプレシンやオキシトシンといったホルモンが、冬眠中の水分保持に深く関わっていることもわかってきました。
このようにして、リスの冬眠の発生から定期的な目覚め、そして冬眠の解除にいたるメカニズムを完全に解明できれば、冬眠を人工的に誘発・中断できるようになると期待されます。
そして動物実験で人工冬眠を成功させた暁には、人類にも適用できるようになるかもしれません。
深宇宙への旅の鍵は、足元の森にいる小さな住人が握っているのです。
参考文献
Hibernation scientists studying squirrels could get humans to deep space
https://www.popsci.com/science/hibernation-science-squirrels/
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部