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しかし、リチウムイオンバッテリーでは、メモリー効果はほとんど発生しません。
リチウムイオンバッテリーは、化学的に安定した設計がされており、結晶化などの問題でバッテリーの寿命に大きな影響を与えることはありません。
むしろ、リチウムイオンバッテリーは完全放電(ゼロまで使い切る)により電圧が非常に低い状態にすることが、内部の化学反応を不安定化させる要因となります。
このため、使い切ってから充電するという旧来の習慣は、逆にバッテリーの寿命に悪影響を与えてしまうのです。
ではリチウムイオンバッテリーの理想的な使い方は、どういうものになるのでしょうか?
リチウムイオンバッテリーを長持ちさせるためには、いくつかの注意点があります。
まず、最も重要なのは、「過充電」を避けることです。
リチウムイオンバッテリーは、充電が100%に達した時点で充電を停止する設計になっていますが、長時間充電器に繋いだままにしておくと、微細な化学的変化が積み重なり、バッテリーが劣化する原因となります。
そのため、充電が完了したらすぐに充電器を外すことが理想です。
また、温度の影響にも注意が必要です。
リチウムイオンバッテリー内の化学変化は温度の影響を受けやすいため、極端な温度で利用すると急速に劣化が進みます。
そのため、夏場の暑い車内に放置したり、高負荷処理のかかるゲームを充電しながら遊ぶなどの行為はバッテリーの劣化を早める可能性があります。
逆に、極端に低い温度もバッテリーには良くないため、寒い場所に放置することも避けた方が良いでしょう。
そして、充電のタイミングについてですが、リチウムイオンバッテリーは「使い切ってから充電」するのは逆効果です。
前述したように、バッテリーは0%や100%の状態で長時間保持することが劣化を招きます。
そのため20%から80%の範囲を意識して充電を行うことが、最もバッテリー寿命を延ばす方法とされています。
さらに、リチウムイオンバッテリーは充電サイクルに限りがあるため、充電回数を減らすこともバッテリー寿命を延ばすことに影響します。
例えば、少し充電してすぐに使い切り、また少し充電するという頻繁な充電よりも、必要な時に一気に充電する方がサイクル回数が減り、結果としてバッテリーの寿命が延びます。
とはいえ、リチウムイオンバッテリーの能力を調査した研究では、フル充電と完全放電のサイクルを400回繰り返すとバッテリーの容量が減り始めると報告されています。
使い切らずに充電するというスタイルを守っていれば、このサイクルにはかなり余裕が生まれると考えられます。
そのため、1~2年で買い替えを考えている人ならば、バッテリーの劣化が気になることはほとんどないでしょう。
特に電気自動車のバッテリーは、5000サイクル以上耐える設計になっており、過充電や完全放電することがほとんどないため、メーカーの想定よりもかなり長持ちすることが報告されています。
しかし、古い知識のまま利用していれば、バッテリーに無駄な負担を掛けることになるのは確かです。
まだ買い替えるつもりはなかったのにバッテリーの容量が目に見えて減ってきた、という状況を避けるためにはあまり負担を掛けない使い方をする方が良いでしょう。
技術は日々進化しており、新しい技術にはかつての常識が通用しない場合もあります。
ニッケル・カドミウム蓄電池(通称:ニカド電池)のメモリー効果に苦しんだ時代から、リチウムイオンバッテリーの登場によって、私たちの生活は便利になりました。
しかし、技術の進歩とともに新しい知識も必要となり、古い常識をそのまま信じていると、誤った使用方法をしてしまうことになります。
リチウムイオンバッテリーのように、古い知識で使っていると、逆に寿命を縮めてしまう場合もあります。
技術の進歩により、デバイスの使い方やケア方法は変化していきます。
技術の常識は時代と共に変化します。知識をアップデートしていくことで、私たちはより快適で持続可能な生活を送ることができるでしょう。
参考文献
How to Prolong Lithium-based Batteries
https://batteryuniversity.com/article/bu-808-how-to-prolong-lithium-based-batteries
元論文
A method to prolong lithium-ion battery life during the full life cycle
https://doi.org/10.1016/j.xcrp.2023.101464
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部