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その一方で、ルーティン化は毎日が同じことの繰り返しになるため、どうしても退屈感が強くなる傾向があります。
そして毎日同じ道を散歩する、同じ仕事を繰り返す、同じ人とだけ話すといった生活では、脳が新しい情報を得る機会が少なくなり、記憶にもあまり残りにくくなるのです。
さらに新鮮な出来事も起こらないような生活を続けていると、精神的に刺激がなくなって徐々に気分が落ち込み、生活満足度や人生の幸福度が下がっていくでしょう。
そこで研究チームは今回、毎日新しい経験をすることが記憶力や気分の向上に寄与するのではないかと考え、調査を行いました。
この研究では、平均年齢71歳の健康な参加者18人に対し、2020年夏のパンデミックのロックダウン期間中に8週間にわたって調査を行いました。
ロックダウンの影響で参加者の生活は完全にルーティン化されており、さらに社会的にも孤立した状態に置かれていたため、認知機能の低下のリスクが高くなっていました。
調査期間中に、参加者は毎日1つだけでいいので新しい経験をするように促され、その期間の記憶力や感情、退屈さの度合いをルーティン化された期間と比較しています。
新しい経験とは本当に簡単なことでOKです。
例えば、庭先から花を摘んで人に渡すとか、いつも通っている道とは違うルートを通るとか、新しい運動やエクササイズに挑戦するとか、普段やらないことなら何でもかまいません。
その結果、事前の予想通り、毎日1つでも新しい経験をした期間はルーティン化された期間に比べて、記憶力が改善しており、退屈感が減って気分が高まっていたことがわかったのです。
これについて研究者は「新しい経験を通じて、脳の報酬系が活性化され、幸福感を感じやすくなったことが要因である」と指摘します。
さらに新しい経験は脳に新鮮な刺激を与えることで、記憶力をも活性化させたと考えられます。
高齢者にとっては「新しい経験」を毎日取り入れることが、認知症の予防にもつながると期待されています。
また研究者らは「今回の研究は高齢者にのみ焦点を当てていますが、新しい経験が与えるポジティブな作用はすべての年齢層に等しく当てはまるでしょう」と話しました。
「毎日が同じことの繰り返しで退屈」
そう感じている人はかなり多いと思います。
そんなときは、ほんの些細なことでいいので、1日1つだけ新しい経験をしてみるといいかもしれません。
参考文献
One new experience a day boosts memory and mood: Study
https://www.artsci.utoronto.ca/news/one-new-experience-day-boosts-memory-and-mood-study
元論文
Unique events improve episodic richness, enhance mood, and alter the perception of time during isolation
https://doi.org/10.1038/s41598-024-80591-z
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部