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私たちは、天気によって気分が変わることをよく知っています。
例えば、晴れた日には外に出たくなり、雨の日には家でゆっくりしたくなるでしょう。
しかし大気汚染は天気と違って、目には見えにくいものです。
にもかかわらず、空気が汚れていると、私たちの気分が悪くなり、それを解消するために買い物をする傾向が高まることが研究で示されたのです。
これは「気分調整(mood regulation)」と呼ばれる心理的メカニズムに基づいています。
過去の研究でも、気分が落ち込むと人はチョコレートやスナック菓子、アルコールなど、快楽をもたらすものを選ぶ傾向があることが知られています。
今回の研究では、大気汚染によって引き起こされる新たな「気分調整」の実態が明らかにされました。
研究チームは、韓国で約4年間にわたり収集されたクレジットカードの取引データと、大気汚染レベルを測る数値(AQI)のデータを分析しました。
このデータには、数百万件の買い物履歴が含まれており、消費者がどんな日にどんなものを買ったのかを詳細に追跡できるようになっています。
そこで研究チームは、
・大気汚染が悪化した日に消費が増えるのか?
・どのカテゴリの商品が特に影響を受けるのか?
という点に注目しました。
その結果、大気汚染のレベルが上がると、消費者の支出が明確に増えていることが判明したのです。
特にエンターテイメントやグルメ関連、贅沢品への支出が増加し、生活に役立つ必需品のような「実用的な消費」よりも、自らの娯楽や欲求を満たすための「快楽的な消費」が顕著に増えていたのです。
さらに研究チームは、被験者202名(平均年齢31歳)を対象に実験を行いました。
被験者に「空気がきれいな日」と「大気汚染がひどい日」の状況を想像させた後、どのような商品を買いたくなるかを調査しました。
すると「大気汚染がひどい日」を想像した被験者は、高級スイーツやエンターテイメント関連の商品を選ぶ傾向が強かったのです。
この研究は「大気汚染が消費行動に影響を与える」という新たな視点を提供しました。
企業にとっては、空気の質をマーケティング戦略に組み込むことができるかもしれません。
例えば、大気汚染がひどい日には高級スイーツやゲーム機器を宣伝するなど、消費者の心理を理解した販売アプローチが可能です。
一方で、消費者自身も「大気汚染の日には衝動買いしやすい」という事実を知っておくことで、無駄遣いを抑えることができるかもしれません。
「気づいたら高級スナックを大量に買っていた…」という日があったなら、もしかするとその日は空気が悪かったのかもしれません。
参考文献
Study: Consumer Spending Rises With Air Pollution
https://today.umd.edu/study-consumer-spending-rises-with-air-pollution
元論文
The Impact of Air Pollution on Consumer Spending
https://doi.org/10.1177/0022242924128299
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部