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動物の嗅覚は驚異的な能力を持っています。
特に昆虫の中には、数キロ先のフェロモンを察知し、正確にパートナーを見つける能力を持つ種も存在します。
例えば、カイコガのオスは、風に乗って漂うメスのフェロモンを頼りに、長距離を飛行して交尾相手を探します。
一方、現在のドローンは主にカメラやレーザーを用いた視覚ベースのナビゲーション技術を採用しています。
しかし、煙や粉塵、暗闇、高湿度といった悪条件下では、これらのセンサーは機能しにくいという課題がありました。
そこで研究チームは、視覚に依存しない嗅覚ナビゲーションをドローンに搭載できないかと考えました。
その答えが、昆虫の触角をそのままドローンに組み込むという発想です。
2011年、照月氏ら研究チームは、生きたカイコガの触角を小型ドローンに搭載したバイオハイブリッドドローンを開発しました。
このドローンは、匂いの濃度や方向を高精度で識別しながら、匂いの源を探索することができました。
とはいえ、当時のドローンは、探索範囲が2m程度に限られていました。
そこで研究チームは、新しい研究により、この技術をさらに進化させ、探索精度を向上させることにしました。
最新の研究で開発されたバイオハイブリッドドローンも、生きたカイコガの触角をセンサーとして利用しています。
今回の研究では、特に2つの改良が加えられました。
まず、「触角を覆う専用カバー」を開発しました。
カイコガは、羽ばたきによって気流をコントロールし、匂いが含まれる気流を自身の触角に選択的に誘導します。
一方でドローンは、プロペラ飛行による対称的な流れが発生するため、匂いの方向を判断するのは簡単ではありません。
そこで、専用カバーが役立ちます。
これを装着することにより、ドローンが飛行中に受ける気流の影響を抑え、匂いの方向をより正確に検出できるようになりました。
次に、「戦略的に動きを停止する探索アルゴリズム」を採用しました。
昆虫は、匂いを探す際に動き続けることはなく、「停止」することが分かっています。
ロボットによる探索では、このポイントが見落とされがちでした。
そこで新しいドローンには、自然界で観察される昆虫の動きをヒントに、一時停止(ホバリング)しながら回転する動作と、一定距離を直進する動作を交互に繰り返すアルゴリズムを開発・導入しました。
回転中にスキャンした匂い情報(匂いセンサの値とドローンの角度)を計算することで、匂い源の方向を推定して、その方向に直進するのです。
そして、このように進化したバイオハイブリッドドローンは、探索範囲が従来の2mから5mへと飛躍的に向上しました。
この結果は、小型ドローンによる匂い探索の世界記録です。
この技術が発展すれば、災害救助だけでなく、ガス漏れの検知や麻薬・爆発物の探索など、幅広い応用が可能になるでしょう。
しかし、実用化にはまだ課題も残されています。
例えば、触角の耐久性が低いため、長期間の使用には工夫が必要です。
今後、これらの課題を克服し、実用化が進めば、匂いを頼りに空を飛ぶレスキュードローンが活躍することになるかもしれません。
参考文献
照月大悟准教授ら、進化した次世代匂い追跡ドローンを開発し、昆虫の技術を駆使した世界最高性能モデルが新記録を樹立!
https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles//news/2025/02/194408.html
元論文
Advanced bio-hybrid drone for superior odor-source localization: high-precision and extended-range detection capabilities
https://doi.org/10.1038/s44182-025-00020-9
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部