煙に包まれた災害現場や、視界ゼロの暗闇の中で、もし「匂い」を頼りに行動できるドローンがあったらどうでしょうか。

信州大学の照月大悟氏ら研究チームは、生きた昆虫の触角を匂いセンサーとして活用した「バイオハイブリッドドローン」を開発し、匂い追跡性能で世界記録を樹立しました。

今回の研究では、昆虫の嗅覚システムを模倣し、従来のドローンでは難しかった匂いによるナビゲーションを実現しました。

探索距離を5mまで拡大し、災害救助や警備の分野での活用が期待されています。

この研究は、2025年2月5日付で『npj Robotics』に掲載されました。

目次

  • 昆虫の嗅覚をドローンに融合!匂いで追跡できるバイオハイブリッドドローン
  • 進化したバイオハイブリッドドローンは探索範囲が2倍以上に

昆虫の嗅覚をドローンに融合!匂いで追跡できるバイオハイブリッドドローン

カイコガは匂いで追跡する / Credit:Wikipedia Commons

動物の嗅覚は驚異的な能力を持っています。

特に昆虫の中には、数キロ先のフェロモンを察知し、正確にパートナーを見つける能力を持つ種も存在します。

例えば、カイコガのオスは、風に乗って漂うメスのフェロモンを頼りに、長距離を飛行して交尾相手を探します。

一方、現在のドローンは主にカメラやレーザーを用いた視覚ベースのナビゲーション技術を採用しています。

しかし、煙や粉塵、暗闇、高湿度といった悪条件下では、これらのセンサーは機能しにくいという課題がありました。

そこで研究チームは、視覚に依存しない嗅覚ナビゲーションをドローンに搭載できないかと考えました。

「昆虫の触角をドローンと融合させる」というアイデアを現実に / Credit:照月大悟(信州大学)_照月大悟准教授ら、進化した次世代匂い追跡ドローンを開発し、昆虫の技術を駆使した世界最高性能モデルが新記録を樹立!(2025)

その答えが、昆虫の触角をそのままドローンに組み込むという発想です。

2011年、照月氏ら研究チームは、生きたカイコガの触角を小型ドローンに搭載したバイオハイブリッドドローンを開発しました。

このドローンは、匂いの濃度や方向を高精度で識別しながら、匂いの源を探索することができました。

とはいえ、当時のドローンは、探索範囲が2m程度に限られていました。

そこで研究チームは、新しい研究により、この技術をさらに進化させ、探索精度を向上させることにしました。

進化したバイオハイブリッドドローンは探索範囲が2倍以上に

最新の研究で開発されたバイオハイブリッドドローンも、生きたカイコガの触角をセンサーとして利用しています。

今回の研究では、特に2つの改良が加えられました。

昆虫の触角をもったドローンが進化 / Credit:照月大悟(信州大学)_照月大悟准教授ら、進化した次世代匂い追跡ドローンを開発し、昆虫の技術を駆使した世界最高性能モデルが新記録を樹立!(2025)

まず、「触角を覆う専用カバー」を開発しました。

カイコガは、羽ばたきによって気流をコントロールし、匂いが含まれる気流を自身の触角に選択的に誘導します。

一方でドローンは、プロペラ飛行による対称的な流れが発生するため、匂いの方向を判断するのは簡単ではありません。

そこで、専用カバーが役立ちます。

これを装着することにより、ドローンが飛行中に受ける気流の影響を抑え、匂いの方向をより正確に検出できるようになりました。

ホバリングしながらの回転と直進を繰り返す新アルゴリズムを導入 / Credit:照月大悟(信州大学)_照月大悟准教授ら、進化した次世代匂い追跡ドローンを開発し、昆虫の技術を駆使した世界最高性能モデルが新記録を樹立!(2025)

次に、「戦略的に動きを停止する探索アルゴリズム」を採用しました。

昆虫は、匂いを探す際に動き続けることはなく、「停止」することが分かっています。

ロボットによる探索では、このポイントが見落とされがちでした。

そこで新しいドローンには、自然界で観察される昆虫の動きをヒントに、一時停止(ホバリング)しながら回転する動作と、一定距離を直進する動作を交互に繰り返すアルゴリズムを開発・導入しました。

回転中にスキャンした匂い情報(匂いセンサの値とドローンの角度)を計算することで、匂い源の方向を推定して、その方向に直進するのです。

5m離れた匂い源を追跡できる / Credit:照月大悟(信州大学)_照月大悟准教授ら、進化した次世代匂い追跡ドローンを開発し、昆虫の技術を駆使した世界最高性能モデルが新記録を樹立!(2025)

そして、このように進化したバイオハイブリッドドローンは、探索範囲が従来の2mから5mへと飛躍的に向上しました。

この結果は、小型ドローンによる匂い探索の世界記録です。

この技術が発展すれば、災害救助だけでなく、ガス漏れの検知や麻薬・爆発物の探索など、幅広い応用が可能になるでしょう。

しかし、実用化にはまだ課題も残されています。

例えば、触角の耐久性が低いため、長期間の使用には工夫が必要です。

今後、これらの課題を克服し、実用化が進めば、匂いを頼りに空を飛ぶレスキュードローンが活躍することになるかもしれません。

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参考文献

照月大悟准教授ら、進化した次世代匂い追跡ドローンを開発し、昆虫の技術を駆使した世界最高性能モデルが新記録を樹立!
https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles//news/2025/02/194408.html

元論文

Advanced bio-hybrid drone for superior odor-source localization: high-precision and extended-range detection capabilities
https://doi.org/10.1038/s44182-025-00020-9

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 【昆虫の触角をドローンに融合】匂いを追跡する次世代ドローンが進化