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この生物は、絶滅した肉食獣のグループ「ハイエノドン目(Hyaenodonta)」に属しており、ヒョウほどの体格で、強靭な顎と鋭い歯で獲物を仕留める超肉食獣(Hypercarnivore)でした。
この動物が食物連鎖の頂点に君臨していたことは、その歯の形状からも明らかです。
ハイエノドン類の特徴的な「はさみ状の臼歯」は、肉を効率的に引き裂くためのものであり、現在のネコ科動物やワニと同じく、食事の70%以上を肉に依存していたと考えられています。
では、なぜこれほど強力な捕食者が絶滅してしまったのでしょうか?
バステトドンを含むハイエノドン類は、当初アフリカで進化し、その後アジアやヨーロッパ、北アメリカへと拡散しました。
しかし約2500万年前を境に、その数は急激に減少し、最終的に完全に絶滅しました。
その理由については、これまでさまざまな仮説が立てられてきました。
一つは「環境の変化」です。
この時期、アフリカでは気候が乾燥化し、森林が縮小しました。
これにより、バステトドンのような大型肉食獣が狩りをするのに適した環境が減少した可能性があります。
また、新たな捕食者の台頭も影響を与えたと考えられます。
この時期、アフリカには現代の肉食獣の祖先が出現し始め、ハイエノドン類と資源を争って競争するようになったのです。
つまり、バステトドンは「環境の変化」と「新たなライバルの登場」によって、徐々に衰退していったと考えられます。
また今回の研究では、バステトドンの歯の構造を解析した結果、彼らが現代のライオンやトラと同じように「待ち伏せ型」の狩猟戦略を取っていた可能性が高いことも判明しました。
バステトドンの発見は、単なる新種の発見にとどまらず、3000万年前の生態系の謎を解き明かす大きな一歩となります。
環境の変化がどのように生物の運命を左右するのか。
そして、食物連鎖の頂点に立つ捕食者ですら、時代の流れには逆らえないという事実。
これらは現代の生態系にも通じる普遍的なテーマです。
参考文献
30-Million-Year-Old Hypercarnivore Skull ‘Dream Find’For Paleontologists
https://www.sciencealert.com/30-million-year-old-hypercarnivore-skull-dream-find-for-paleontologists
元論文
Cranial anatomy of the hypercarnivore Bastetodon syrtos gen. nov. (Hyaenodonta, Hyainailourinae) and a reevaluation of Pterodon in Africa
https://doi.org/10.1080/02724634.2024.2442472
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部