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人間の体には 100兆を超える微生物 が生息しています。
腸内フローラ(腸内細菌)という言葉はよく聞きますが、 皮膚や口の中、性器にも独自の微生物群が存在 していることはあまり知らないかもしれません。
これらの微生物は個人ごとに異なる特徴を持っており、 「指紋」のように個人を識別できる可能性があります。
例えば、口腔内の微生物は「誰がコップを使ったのか」などを特定するのに利用できると考えられています。
また過去の研究では、PCのキーボード上の微生物から、持ち主を特定できることが報告されています。
しかし、性器の微生物が 性行為の証拠として活用できるかどうか については、これまでほとんど研究されていませんでした。
もし 性行為中に微生物がパートナー間で移動し、それが一定期間体内に残る ならば、性的暴行の捜査にも応用できる可能性があります。
そこで、今回の研究では 性行為前後で性器の微生物がどう変化するのか を詳しく調べることになりました。
研究チームは、12組の一夫一婦制の異性愛カップルを対象に実験を行いました。
カップルは 少なくとも2日間(最長2週間)セックスを控え、その後、性行為を行いました。
そして研究チームは、 性行為の前後に性器からサンプルを採取 し、RNA遺伝子解析を用いて微生物の変化を分析しました。
ちなみに、 カップルのうち3組がコンドームを使用したと報告しています。
さらに、 陰毛の有無 も考慮し、陰毛のある場合とない場合で微生物の保持率に差があるかも調べました。
その結果、性行為後には パートナーの微生物が性器内に検出される ことが確認されました。
特に女性から男性への微生物の移行が顕著でした。
加えて、コンドームを使用してもこれら微生物の移動は、完全には防げないことが判明しました。
そして陰毛の有無は、微生物の移動に影響を及ぼさないとも分かりました。
これは DNAが残らない状況でも、微生物を手がかりに性行為の有無を証明できる可能性を示しています。
研究チームは、これら移動する性器微生物を「sexome」と呼んでいます。
そして、この研究は、性犯罪の捜査における「微生物証拠」の可能性を示した画期的なものです。
従来、性的暴行の証拠収集はDNA解析が主流でしたが、加害者がコンドームを使用したり、証拠が洗い流されてしまうと、DNAからの特定が難しくなります。
しかし、今回の研究結果から 新たな証拠である「微生物」を解析することで、性行為の有無を推定できる可能性が示されました。
これが実用化されれば、 性犯罪の捜査手法が大きく進化するかもしれません。
もちろん、微生物証拠を法医学に取り入れるには、いくつかの課題が残されています。
今後、さらに大規模な研究が行われるなら、 微生物の痕跡が新たな犯罪捜査の武器になる かもしれません。
もしかすると、 将来の法廷では「この人の性器微生物叢が一致しました」と証言される日が来るかも…!?
参考文献
After sexual intercourse, both partners leave traces of their own unique genital microbiome
https://www.eurekalert.org/news-releases/1072866
The ‘sexome’: A new forensic tool to identify perpetrators
https://newatlas.com/society-health/genital-microbiome-forensics-sexual-assault/
元論文
Bacterial transfer during sexual intercourse as a tool for forensic detection
https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.111861
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部