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尋常性白斑の治療法としては、ステロイド外用薬、光線療法(紫外線を照射してメラノサイトを刺激する)などがあります。
これらの治療法も一定の効果は期待できますが、完全に色素を回復させるのは難しく、副作用の問題もあります。
では、尋常性白斑の原因は何でしょうか。
尋常性白斑の原因は完全には解明されていませんが、主に自己免疫異常が関与していると考えられています。
つまり、免疫システムが誤ってメラノサイトを攻撃し、色素を失わせるのです。
また、最近の研究では皮膚の微生物群(スキンマイクロバイオーム)の不均衡が白斑の発症や進行に関与している可能性が指摘されています。
皮膚の健康な細菌バランスが崩れることで免疫異常が引き起こされ、メラノサイトの破壊につながる可能性があるのです。
このような背景の中、今回の研究では「皮膚の免疫環境を調整し、白斑の進行を抑える新たな方法」として、ある細菌に着目しました。
今回の研究では、尋常性白斑のマウスを用いて、枯草菌(学名:Bacillus subtilis)の効果を検証しました。
枯草菌は、自然界の土壌や植物の表面に広く存在する細菌で、ヒトの腸内にも含まれています。
この細菌は、免疫系に影響を与える多くの生理活性物質を産生します。
特に菌体外多糖(exopolysaccharide;EPS)と呼ばれる糖鎖化合物は、免疫調節作用を持つことが知られています。
枯草菌は、免疫系の過剰な炎症反応を抑える作用があるため、自己免疫疾患の治療に応用できる可能性が指摘されていました。
今回の研究では、枯草菌が作り出すEPSが尋常性白斑の進行を抑制し、色素の回復を促進するかどうかを検証しました。
研究チームは、EPSをマウスに週1回、18週間にわたり腹腔内注射で投与し、その間に白斑の進行を観察しました。
腹腔内注射が選ばれた理由は、EPSを腸内で分解させずに全身の免疫系に直接作用させるためです。
また、免疫細胞の変化を詳しく分析し、EPS投与群と非投与群を比較して、その効果を評価しました。
その結果、EPSを投与したマウスでは、白斑の進行が74%抑制され、色素の回復が顕著に見られました。
さらに、免疫系のバランスにも変化が生じ、メラノサイトを破壊するキラーT細胞が63.6%減少し、同時にメラノサイトを保護する制御性T細胞が1.7倍に増加しました。
この研究は、枯草菌由来のEPSが尋常性白斑の進行を抑え、回復させる可能性を示しました。
とはいえ、今はまだマウス実験の段階であり、ヒトでの効果や安全性は確認されていません。
今後の研究では、EPSをどのように投与すれば最適なのか(経口、皮膚塗布、注射など)、ヒトでの臨床試験でどの程度の効果があるのか、他の自己免疫疾患にも応用できるのかなどが検討されるでしょう。
尋常性白斑の治療に「微生物の力」が活用される日が来るかもしれません。
参考文献
Microbial therapy offers new hope for vitiligo patients
https://news.northwestern.edu/stories/2025/01/microbial-therapy-offers-new-hope-for-vitiligo-patients/
Gut bacteria may be the key to much more effective vitiligo treatment
https://newatlas.com/medical-tech/gut-bacteria-vitiligo-treatment/
元論文
Bacillus Subtilis–Derived Exopolysaccharide Halts Depigmentation and Autoimmunity in Vitiligo
https://doi.org/10.1016/j.jid.2024.12.006
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部