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しかし、ここで疑問が浮かびます。
シャコは自分のパンチ力で拳を壊してしまわないのでしょうか?
通常、強い衝撃を繰り返し受ければ、どんなに丈夫な物質でも亀裂が入り、損傷します。
それにもかかわらず、シャコは何度もパンチを繰り出しながらも、自分の拳を痛めることがありません。
これまでの研究では、シャコの拳の表面がナノ粒子の頑丈な層で強化されていることが判明しています。
しかし、それだけでは自ら生み出す強烈な衝撃波を防ぐには不十分だと考えられていました。
ところが今回の研究で、シャコの拳は「音響的な防御メカニズム」を備えていることが明らかになったのです。
研究チームはレーザーを用いた超音波解析とシミュレーションを行い、シャコの拳が実際にどのように衝撃を制御しているのかを詳細に調べました。
その結果、シャコの拳は単なる強固な装甲ではなく、「衝撃を遮断するフィルター」として機能していることが明らかになったのです。
チームの分析によると、シャコの拳の内部構造は主に2つの重要なシステムが組み合わさっていました。
1つは物理的な強度を高めて、拳が割れるのを防ぐシステム。
そしてもう1つは高周波の衝撃波を内部に伝わらないようフィルターし、衝撃波の伝達を制御するシステムです。
チームはこの新たに見つかった、衝撃波を特定の周波数で遮断する機能を「フォノニックシールド(phononic shield)」と呼んでいます。
つまり、シャコは物理的な硬さで拳を守るだけではなく、衝撃波を特定の波長で遮断し、内部の神経や組織を守っていたのです。
この研究成果は、生物学の枠を超え、材料工学や防護技術の分野への応用が期待できるとチームは話しています。
例えば、防弾ベストやスポーツ用の防具やヘルメットなど、衝撃を和らげるための新素材の開発が考えられます。
また水中での衝撃吸収技術の向上にもつながるかもしれません。
シャコの拳は「強さ」と「賢さ」を兼ね備えた驚異的な進化の産物です。
今後、この知見を活かして、より強く、より安全な素材が生み出される日が来るかもしれません。
参考文献
Mantis shrimp clubs filter sound to mitigate damage
https://news.northwestern.edu/stories/2025/02/mantis-shrimp-clubs-filter-sound-to-mitigate-damage/
How mantis shrimp protect their powerful ‘fists’ of fury
https://www.popsci.com/environment/mantis-shrimp-punches/
元論文
Does the mantis shrimp pack a phononic shield?
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adq7100
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部