- 週間ランキング
その後の1968年、アメリカの社会心理学者であるビブ・ラタネとジョン・ダーリーがこの事件に興味を持ち、多くの人が事件を目撃したにも関わらず助けようとしなかった原因を探ろうと実験を行いました。
ここでは学生を対象に「2名・3名・6名」の3つのグループを作り、それぞれを個室に入れてグループでの議論を行わせます。
その最中に1人が発作を起こして倒れる演技をしました。
その結果、2名のグループでは全員がパートナーを助けたのに対し、6名のグループで助けようと行動したのは38%と減少していたのです。
この実験から両氏は「キティ・ジェノヴィーズ事件では、都会人の心が冷たいから誰も助けなかったのではなく、自分以外にも多くの人が見ていたために助けなかったのだ」と結論しました。
では、なぜ周りに人がたくさんいるほど、人助けを躊躇(ちゅうちょ)してしまうのでしょうか?
ラタネとダーリーは、傍観者効果の原因として「責任感の希薄化」と「社会的影響」の2つの要因を挙げました。
責任感の希薄化とは、目撃者が多くなるほど、「自分が行動を起こさなくても誰かがやるだろう」と感じ、個人の責任感が薄れてしまう心理を指します。
社会的影響とは、周囲の人々の行動を観察し、それに基づいて自分の行動を決定することを指します。
なので他の人が行動を起こさない場合は、自分も何もしない傾向が強くなります。
周りの人が誰も動かないのであれば、「ああ、これは緊急事態ではないのだな」と勘違いしてしまい、行動を起こせなくなるのです。
他にも傍観者がたくさんいることで「自分が率先して助けに入るのが恥ずかしい」とか「実は命の危険はないのに、自分が誤解しているだけなのではないか」「助けに行って断られたら嫌だな」といった様々な考えが浮かんで、行動を起こすことを妨げてしまいます。
では、傍観者効果を回避するには何をすればいいのでしょうか?
街中で急に困っている人に遭遇すると、やはりどうしても人助けに躊躇してしまうでしょう。
そこで傍観者効果を回避する上で最も大切なのは、傍観者効果のことを理解して、日頃から意識を高めておくことです。
傍観者効果の存在を知っておくこと自体、すでに大きな一歩を踏み出すことにつながっています。
傍観者効果のことをしっかり理解し、日頃から頭の中で「困っている人がいたら自分が率先して行動する」というイメージをリハーサルしておくのです。
そうすれば、街中で困っている人に遭遇しても傍観者効果にかかることなく、落ち着いて対処しやすくなります。
またあなたが冷静に率先して行動できれば、周りの人たちも傍観者効果の魔力から解放されて、次々と行動に乗り出しやすくなるでしょう。
私たちの中に根強く存在する心理に打ち勝つには、それを理解し、自らの意識を高めておくことが重要です。
参考文献
Bystander Effect
https://www.psychologytoday.com/intl/basics/bystander-effect
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部