大切な人に臓器移植の必要が生じ、長くドナーを待たなければいけないなら、どう感じるでしょうか。

「早くドナーが見つかってほしい」「どんなに小さな可能性でもいいから臓器移植の機会を提供してほしい」と考えるかもしれません。

では、「多くの人が臓器移植を待っている現状」を打破するアイデアはあるでしょうか。

もしかしたら、その1つは「既に移植された臓器を再び移植する」というアイデアかもしれません。

しかし、臓器を複数回リサイクルするという行為は適切なのでしょうか。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校が運営する医療機関ネットワーク(UCLA Health)に所属する腎臓移植外科医のジェフリー・ヴィール氏は、「まだ実験段階ではあるが、実現可能である」と述べています。

目次

  • 世界中で多くの患者がドナーを待っている
  • 臓器の再移植が難しい理由―拒絶反応の壁
  • 移植した臓器を再び利用した例

世界中で多くの患者がドナーを待っている

多くの患者が臓器移植を待っている / Credit:Canva

世界中で多くの患者が臓器移植を必要としていますが、ドナーの数が限られているため、それらの人々は長期間待機しなければいけません。

アメリカ保険資源事業局(HRSA)移植部門の公式米国政府Webサイト「Organdonor.gov」によると、アメリカでは、2023年に4万6000件の移植手術が行われたにも関わらず、まだ10万人以上が移植待機リストに載ったままです。

しかも、この移植待機リストには8分ごとに新たな人が追加されていくのです。

では、これら「ドナー不足」を解消するためのアイデアはあるでしょうか。

その1つが「臓器の再移植(再利用)」です。

通常、一度移植された臓器は、患者の死亡と共にその機能を失うと考えられます。

それでも、「もし、その臓器がまだ健康で機能しているのであれば、別の患者のために再利用できる」というアイデアがあるのです。

当然ながら、この臓器の再移植には大きな課題があります。

臓器の再移植が難しい理由―拒絶反応の壁

臓器の再移植が難しい理由の1つは、免疫拒絶のリスクにあります。

私たちの体の細胞には、各人ごとに異なる「目印」が付いています。

これは、HLA(ヒト白血球型抗原)と呼ばれるタンパク質であり、私たちの体の免疫システムが、自己と非自己を認識するためのカギとなります。

血液型は4通り(A,B,O,AB)ですが、HLAは数万通りもあるため、異物と認識される可能性が高くなっています。

これは、ウイルスなどの病原体に対抗するには効果的ですが、移植医療では妨げとなります。

ドナーのHLAとレシピエントのHLAが異なるため、移植された臓器が異物として認識され、免疫反応により排除されてしまうのです。

私たちはこれを「拒絶反応」と呼んでいます。

そのため患者は、この拒絶反応を抑えるために、免疫系の反応を弱める薬「免疫抑制剤」を使用し続けなければいけません。

この免疫抑制剤の使用により、患者は他の感染症にかかりやすくなります。

臓器移植すると拒絶反応が起こる / Credit:Canva

そして、「臓器の再移植」でも、この拒絶反応が大きな壁となります。

一度移植された臓器は、最初のレシピエントの免疫系と接触したことで、元のドナーのHLAだけでなく、最初の受容者のHLAも影響を受ける可能性があります。

つまり新たなレシピエントは、「元のドナーのHLA」+「前レシピエントのHLA」の両方に対して拒絶反応を起こすかもしれないのです。

UCLA Healthに所属する腎臓移植外科医のジェフリー・ヴィール氏も、「臓器の再移植では、拒絶反応のリスクが増す」と述べています。

追加のHLAにより、通常の移植よりも拒絶反応が複雑になり、危険が高まるのです。

もちろん、「臓器の再移植」を難しくさせるのは、拒絶反応だけではありません。

最初の移植手術の影響で、移植臓器の細胞や血管に変化が生じ、手術の難易度が上がることも課題となるのです。

とはいえ、これらのデメリットがあっても、臓器の再移植を行うことは不可能ではありません。

なぜなら過去には、臓器の再移植手術が何度か成功しているからです。

移植した臓器を再び利用した例

これまでに臓器の再移植は行われたことがあります。

例えば、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の2018年の研究では、腎臓が再移植された3ケースを分析しています。

1つ目のケースでは、最初の移植から2週間で再移植することになり、1年後も腎機能は良好でした。

最初に移植を受けたレシピエントが、術後2週間で脳卒中により亡くなったため、家族の同意により、別の患者へとすぐに移植されることになったのです。

2つ目のケースでは、最初の腎臓の移植から2年後に、その腎臓を再び利用することになりました。

このケースでは、一時的な機能低下があったものの後に回復しています。

3つ目のケースでは、あるレシピエントが腎臓移植された後すぐにトラブル(レシピエントに起因)が生じ、移植された腎臓を摘出することになりました。

この摘出された腎臓は、患者の承諾のもと、別の患者へ再移植され、術後2カ月でも腎機能が安定していると報告されました。

過去には、心臓の再移植(再利用)が成功していた / Credit:Canva,ナゾロジー編集

またドイツのミュンヘン大学(LMU München)の1994年の研究では、心臓の再移植について報告されています。

心臓移植を受けた最初のレシピエントが術中に脳死したため、その心臓を2番目のレシピエントへと移植したのです。

術後の経過は良く、論文が執筆された時点では、2年以上が経過しているものの、患者は生存していました。

UCLA Healthのジェフリー・ヴィール氏は、これら過去の事例から、「まだ実験段階ではあるが、臓器の再移植は実現可能である」と述べています。

もちろん、前述したように拒絶反応のリスクは高まります。

それでも臓器移植を待つ患者が毎日何人も亡くなっていることを考えると、それらの人をいくらかでも救う可能性に目を向けることは大切です。

その対象が「自分の大切な人」だった場合、その可能性に希望を託したいは多いかもしれません。

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参考文献

Can you transplant an organ more than once?
https://www.livescience.com/health/can-you-transplant-an-organ-more-than-once

元論文

Donating Another Person’s Kidney: Avoiding the Discard of Organs by Retransplantation
https://doi.org/10.1097/tp.0000000000002308

One heart transplanted successfully twice
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8031819/

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 移植された臓器を「別の人へ再び移植」できるのか?