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そして重要なポイントは、コウモリが哺乳類であるということです。
同じ飛行能力を持つ鳥類は骨の構造が中空になっています。この構造は軽量化のために進化したものです。
骨の中が空洞で、そこに空気が入ることで、鳥の飛行に必要な軽量化と効率的な酸素供給が可能になりました。
これにより、鳥は空を飛ぶ際に必要なエネルギーを最小限に抑えることが可能ですし、地上からでも上方向に飛び上がることができるようになったのです。
ところがコウモリは他の哺乳類と同じく、中空の骨を持っていないため、飛行中に十分な揚力を得ることができません。
地上から直接飛び立つのは効率が悪いのです。
そこでコウモリたちは最初から高い位置にいて、そこから下方向に落下する形で飛び始めるのがベストとなりました。
落下するときは当然、頭から下に向かいますから、この形を取り続けた結果、ぶら下がり姿勢が彼らのスタンダードになったと考えられています。
とはいえ、逆さまでのぶら下がり姿勢は辛くないのでしょうか?
これに関してコウモリは垂直な樹木を上るための強い筋肉やかぎ爪、腱を進化させているため、難なくぶら下がり姿勢を保つことができます。
コウモリはぶら下がる場所を見つけると、かぎ爪を開いてそれを引っかけ、筋肉や腱を使って固定しておきます。
まるでフックをかけておくようにしっかりとロックされるので、眠っていても外れることはありません。
なので、ぶら下がった状態でも体をリラックスさせることができます。
しかしコウモリといえども血液はありますから、ぶら下がりの状態で頭に血は上らないのでしょうか?
これについて専門家は「人間が逆さまになると血液が頭に溜まり、時間が経つにつれて健康問題を引き起こしますが、コウモリは小型で軽量のため、心臓が体全体に血液を送ることが非常に容易です」と指摘します。
そのため、ぶら下がっていても血液が体を十分に巡っているので、頭に血が上ることはないのです。
また高い場所にぶら下がって眠ることは進化的に大きな利点がありました。
地上にいる天敵から身を守ることができるようになったのです。さらに洞窟や木々の下など、暗く見えにくい場所に陣取ることで、フクロウやタカの脅威をも遠ざけることに成功しました。
ぶら下がりはコウモリが進化させた護身術だったのです。
とはいえコウモリの中にも完全には逆さまにぶら下がらない種がいます。
それが中央アメリカや南アメリカの熱帯雨林に生息するスイツキコウモリです。
彼らは面白いことにかぎ爪ではなく、名前にもあるとおり、特殊な吸盤を発達させており、それを葉っぱの裏側に吸い付けて体を固定しておくのです。
確かに逆さまになることもありますが、スイツキコウモリはいろんな角度で体を固定し、眠ることができます。
このように、コウモリが逆さまにぶら下がって眠る理由には、進化の過程や効率的な飛行、捕食者からの保護といったさまざまな要因が関係しています。
その仕組みや習性を知ることで、コウモリがいかに環境に適応して進化してきたかを理解することができます。
今度、コウモリを見かけたら、彼らの不思議な習性に思いを馳せてみてください。
その小さな体には、私たちがまだ知らない驚きの秘密が詰まっているかもしれません。
参考文献
Why do bats hang upside down to sleep?
https://www.livescience.com/animals/why-do-bats-hang-upside-down-to-sleep
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部