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もちろん鼻づまりだけが原因とは限りませんが、「慢性的に呼吸がしづらい」状態を長く放っておくのは得策ではないでしょう。
特に、花粉症やアレルギー性鼻炎を持つ人は軽い鼻づまりに慣れてしまいがちです。
しかし、セルフケア(鼻うがいや吸入器の活用、睡眠時の姿勢調整など)を地道に行うだけで、体感がかなり変わるケースもあります。
「たかが鼻づまり」と侮っていると、知らないうちに日常生活のクオリティを下げているかもしれません。
東京科学大学の研究チームの論文は、こうした鼻づまりの影響をさらに深く探ったものになります。
鼻呼吸ができない状態で長期間過ごしたマウスの脳回路を調べたところ、驚くほどはっきりした変化が見られたそうです。
マウスを使った実験で、鼻づまりと脳の関係を明らかにしました。
研究チームは、生後間もない段階で片方の鼻をふさいだグループと、ある程度成長してから鼻をふさいだグループ、そして鼻づまりのないグループを比較し、運動テスト(回転する棒の上にどれだけ長く乗れるか)や、強制水泳テスト(不快な状況下での行動を観察)などを行いました。
その結果、生後間もない頃から鼻呼吸が妨げられたマウスは、明らかに運動機能が落ちていたほか、水泳テストでも「動きを止めてしまう時間」が長くなる傾向が見られたのです。
いったいなぜ、鼻づまりがこうした変化をもたらしたのでしょうか。
研究では特に「小脳」に注目していました。
小脳は私たちが姿勢やバランスを保つために重要な場所ですが、最近は情緒や認知面にも広く関わっているとわかってきています。
そして今回、鼻づまりマウスの小脳ではシナプス刈り込みというプロセスがうまく進んでいないことが確認されました。
(※シナプス刈り込み:成長期に脳内でつくられた過剰な神経接続を「必要なものだけ残し、不要なものは整理する」ことで、より効率的な回路をつくりあげる仕組み)
このシナプス刈り込みが乱れると、小脳のネットワークが本来の形に成熟しにくくなると考えられています。
結果として、運動テストでバランスを崩しやすくなったり、水泳テストで動きをやめる時間(抑うつ様行動と解釈される)が増えたりする可能性があるのです。
研究チームによると、こうした発達期の鼻づまりによる影響は思った以上に長引くようで、大人になってから突然鼻をふさいだグループではそこまで大きな問題は起きなかったそうです。
とはいえ、大人の場合でも慢性的な鼻づまり状態で過ごしていれば、睡眠障害や酸素不足が積み重なって集中力やメンタル面に影響する可能性は考えられます。
今回の実験は発達期の脳を中心に調べていますが、「呼吸が脳に影響を与える仕組み」が解明されれば、子どもから大人まで含めたケアや予防法の開発につながるかもしれません。
鼻づまりを改善するだけで、脳と身体両面のパフォーマンスが底上げされる可能性は十分に考えられるのです。
今回の研究結果は、鼻づまりを「ただの不快症状」と見過ごしていると、実は小脳の神経回路づくりにも影響が及び、運動能力やメンタル面に変化が起きるかもしれないという内容でした。
特に子どもの成長期には、長引く鼻づまりが思いがけない影響を残す可能性も示唆されています。
もちろん「鼻が詰まらなければ万事解決」という単純な話ではありませんが、睡眠の質や日中の集中力を高めるうえで、鼻づまりを放置しないことは大きな意味を持ちそうです。
普段あまり気にしていなかった方も、ぜひ一度「自分の呼吸状態」を見直してみるといいかもしれません。
ほんの少しのケアでも、体の感覚や気分が軽くなる可能性は十分にあります。
参考文献
鼻呼吸の重要性を解明:発達期の鼻閉塞が脳に与える影響
https://www.isct.ac.jp/ja/news/6nh69v4x1xt2
元論文
Nasal obstruction during development leads to defective synapse elimination, hypersynchrony, and impaired cerebellar function
https://doi.org/10.1038/s42003-024-07095-4
ライター
岩崎 浩輝: 大学院では生命科学を専攻。製薬業界で働いていました。 好きなジャンルはライフサイエンス系です。特に、再生医療は夢がありますよね。 趣味は愛犬のトリックのしつけと散歩です。
編集者
ナゾロジー 編集部