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ではなぜ、毎セット最後まで頑張ったのに、トレーニング効果が高まらなかったのでしょうか?
この理由の1つとして、最初の1セットから頑張り過ぎたことで、筋肉や神経が早くに疲れてしまい、2セット目以降のトレーニングの質が落ちたことが影響している可能性があります。
実際、この実験においても、セットが進むにつれての反復回数の減少は、毎セットできなくなるまで追い込んだ脚の方が著しくなっていました。
したがって、仮に追い込むことが好きな人であっても、序盤のセットでは、あえて余裕を残して終わり、終盤のセットまで余力を残した方が、結果としてトレーニング全体の負荷を高められるのかもしれません。
次のページでは、週当たりのセット数という観点から、頑張り過ぎなくても効果が得られることを説明していきます。
筋トレ愛好家や、パーソナルトレーナーなどの指導者の多くが大切にしているトレーニングの原則の1つに、漸進性過負荷があります。
漸進性過負荷とは、トレーニング効果を効率的に獲得し続けるために、トレーニング負荷を少しずつ増やすという漸進性と、通常の負荷よりも高い負荷をかけるという過負荷の要素を合わせたものです。
漸進性過負荷をかける手段には様々なバリエーションがありますが、その中でもセット数を増やすことは典型的なアプローチです。
今回、アメリカのタンパ大学(The University of Tampa)のエドゥアルド・オリベイラ・デ・ソウザ博士らの研究グループは、3年以上の筋トレ経験を持つ男性の筋トレ愛好者を対象に、週あたりのセット数とトレーニング効果に関する興味深い実験結果を発表しました。
その研究では、対象者を次の3つのグループにランダムに分けました。
コントロール群:普段のセット数を維持
30%増加群:普段より30%多いセット数を実施
60%増加群:普段より60%多いセット数を実施
トレーニングの期間は8週間、頻度は週2回、種目はスクワット、レッグプレス、レッグエクステンションの3種目です。
結果として、筋肉の厚さは、どのグループでも似たように増加しました。
また、最大筋力の指標であるスクワットの最大挙上重量は、どのグループでも増加しましたが、最も著しく増加したのはセット数を増やさなかったコントロール群でした。
これらの結果は、セット数を増やすことがトレーニング効果を高めることに繋がるとは限らないことを意味しています。
では、なぜセット数を増やした2つのグループで、筋肥大や最大筋力の増加の効果が高まらなかったのでしょうか?
考えられる原因の1つは、コントロール群が普段実施していたセット数(約12セット/週)でも、すでにトレーニング効果を得るために十分な負荷を確保できていた可能性があるという視点です。
もちろん、トレーニング量を増やすことは筋肉への刺激を高めるプラスの要素がありますが、それに伴い疲労が蓄積し、トレーニング間での回復が追いつかなくなるなどのマイナスの要素も生じます。
ソウザ博士らも得られた結果をもとに、「必ずしも“より多く”が筋肉の適応に良いとは限らないことを示唆しており、週あたりのセット数が広範囲にわたって筋肉の成長に寄与することを強調している」とまとめています。
もちろん、多くトレーニングをすることが好きな人にとっては、同じくらい筋肉が大きくなるのであれば、多くやっても良いじゃないかという捉え方もできるかもしれません。
ただし、セット数が増えるということは、基本的にトレーニング時間が増えます。
多くの人にとって「時間の欠如」がトレーニングへのハードルを高めている現状を踏まえると、強度を高めるといった他の要素で漸進性過負荷の原則を守るとしても、セット数を増やし続ける必要はないのかもしれません。
今回の2つの研究は、ともにトレーニング経験が豊富な筋トレ愛好者を対象としたものですが、毎セットできなくなるまで追い込まなくても、また週あたりのセット数を増やさなくても、トレーニング効果が得られることを示しています。
これらの研究は、筋トレ愛好家に向けて、適度と適度の境目を示してくれる貴重なデータとも言えそうです。
参考文献
Is Training to Failure Better For Hypertrophy?
https://barbend.com/is-training-to-failure-better-for-hypertrophy/
元論文
Similar muscle hypertrophy following eight weeks of resistance training to momentary muscular failure or with repetitions-in-reserve in resistance-trained individuals
https://doi.org/10.1080/02640414.2024.2321021
Training Volume Increases Or Maintenance Based On Previous Volume: The Effects On Muscular Adaptations In Trained Males
https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00476.2024
ライター
髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。
編集者
ナゾロジー 編集部