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実はトカゲは適当な場所で尻尾を切り離しているわけではありません。
尻尾には切り離しやすくなっている場所がちゃんとあるのです。
トカゲの尻尾は私たちの背骨と同じように、小さな椎骨がいくつも連なってできており、その真ん中あたりに紙の切り取り線のような切れ目が入っています。
これを「脱離節(だつりせつ)」と呼びます。
脱離節の部分では、骨も筋肉もスパッと切り離しやすいようになっており、トカゲが危険を感じて強いストレスを受けると、それがスイッチとなって自切機能が作動するのです。
また、トカゲの尻尾切りを実際に見たことがある人は、切断面からほとんど血が出ていないことに気づいたかもしれません。
私たちであれば、指の一本でも切断すると大量に出血してしまいますよね。
ところがトカゲの尻尾では、切断面の筋肉がすばやく収縮して出血を止めることができるのです。
では、今度は切れた尻尾を再生するメカニズムについて見てみましょう。
トカゲの尻尾の切断面を観察していると、筋肉がゆっくりと盛り上がってくるのがわかるでしょう。
これが尻尾の再生の始まりです。
どうしてトカゲは切れた尻尾を再生できるのか?
この鍵を握っているのは、筋肉に含まれる「幹細胞」です。
幹細胞とは「さまざまな細胞に変身できる能力(分化能)」と「自分と同じ機能を持つ細胞をコピーできる能力(自己複製能)」を兼ね備えた便利な細胞のことを指します。
幹細胞はヒトにも存在しており、皮膚や血液のように、一個一個の細胞の寿命が短く、絶えず入れ替わり続ける組織を保つために幹細胞が働いて、失われた細胞分を常に補充しています。
そしてトカゲの尻尾においては、切断面に形成される「芽(ブラステマ)」という組織に幹細胞が集まって、細胞の分化と複製を行い、新しい尻尾を作り出していくのです。
種類にもよりますが、ほとんどのトカゲは1〜2カ月ほどで尻尾を再生させます。
ところが再生した尻尾は完全に元通りになるわけではありません。
というのも再生された尻尾の中では、硬い骨までは作り直すことができず、代わりに軟骨が形成されるため、形が少々歪(いびつ)であったり、サイズが小さかったり、色や模様が変わることがよくあるのです。
また尻尾が中途半端な形で部分的に切断されたり、再生の過程で神経が異常に活発化したりすると、複数本の尻尾が同時に再生されるケースもあります。
ここまでトカゲの尻尾の「自切」と「再生」の仕組みについて見てきましたが、では最後に、トカゲは何回まで尻尾を再生できるのでしょうか?
先ほど言ったように、トカゲの尻尾はたった1回の自切でも、硬い骨は再生されなくなるので、完全な尻尾を取り戻すことは二度とできません。
ただ、トカゲの生態に詳しい豪カーティン大学のダミアン・レットゥーフ(Damian Lettoof)氏によると、切断面の椎骨と幹細胞が残っていれば、「理論的には、再生できる尻尾の回数には制限はない」といいます。
しかしこれはあくまでも理論上の話でしかありません。
現実的な話をすると、トカゲが切れた尻尾を再生できるのは生涯でも1〜2回が限度だと指摘されているのです。
一体なぜなのか?
1つ目の要因は、幹細胞が枯渇することです。
尻尾の再生には幹細胞が必須であることは先にお話ししましたが、同じ部位で何度も再生をしようとすると、幹細胞の供給が追いつかなくなり、最終的には細胞分裂が止まってしまいます。
2つ目の要因は、切断面の重大な損傷です。
尻尾は切断面に沿ってスパッと切り離すことができますが、例えば、天敵に尻尾の根元まで深く傷つけられたりした場合、再生のプロセスが正常に機能しなくなります。
そして3つ目の要因は、尻尾の再生に多大なエネルギーがかかることです。
尻尾を再生させるには、特にタンパク質やカルシウムなどの重要な栄養源が必要であり、それだけの栄養が取れない環境下では、尻尾の再生が不完全になったり、再生自体ができなくなります。
また一度の再生で体内のエネルギーを大量に消費するので、何度も尻尾を作り直すことは不可能なのです。
トカゲは尻尾の自切や再生によって体調を崩すこともあり、メスの場合は産卵ができなくなることもあるといいます。
以上の理由から、トカゲが尻尾を再生できる回数は1〜2回が現実的な数字と言えるでしょう。
私たちからすれば、トカゲは簡単そうに尻尾を切り離し、再生しているように見えますが、本当は多大なリスクのある最終奥義なのです。
なのでトカゲを見かけた際は、くれぐれも面白半分に尻尾を切り離さないようにしてあげましょう。
参考文献
How Many Times Can A Lizard Can Regrow Its Tail?
https://www.iflscience.com/how-many-times-can-a-lizard-can-regrow-its-tail-77196
Double take: New study analyses global, multiple-tailed lizards
https://www.curtin.edu.au/news/media-release/double-take-new-study-analyses-global-multiple-tailed-lizards/
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部