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そこで専門家たちは2009年に、人々が地球で安全に活動できる範囲を科学的に定義するための概念として「プラネタリー・バウンダリー(惑星限界)」を策定しました。
プラネタリー・バウンダリーは、以下の9つの項目で構成されています。
1:気候変動(大気中の二酸化炭素濃度など)
2:生物多様性の損失(生物種の絶滅率)
3:生物地球化学的循環(人為的に大気中から除去された窒素の量、人為的に海洋に入るリンの量など)
4:海洋酸性化(表層海水中のアラレ石の全球平均飽和状態)
5:土地利用の変化(農地に変換された地表面のパーセンテージ)
6:淡水利用(地球規模でどれだけ淡水を使っているか)
7:オゾンホール(成層圏のオゾン濃度)
8:大気エアロゾル粒子(大気中の全体的な粒子状物質の濃度)
9:化学物質による汚染(有機物質、重金属、放射能汚染などの環境中の濃度)
それぞれに「このレベルまでは大丈夫」という安全域と、「このレベルを超えてはいけない」という限界点が設けられています。
この限界点を超えると、地球環境の安定性と回復力に不可逆的なダメージをもたらす恐れがあるとされています。
プラネタリー・バウンダリーはこれまで、2009年・2015年・2017年・2023年と定期的に評価されており、人類が現状どれだけの惑星限界を超えてしまっているかが見積もられてきました。
しかしスウェーデン・ストックホルム大学によると、2023年時点で人類は9つのプラネタリー・バウンダリーのうち、すでに6つの限界点を超えていると報告されているのです。
2023年の評価を見ると、気候変動、生物多様性の損失、生物地球化学的循環、土地利用の変化、淡水利用、化学物質による汚染はすでに安全なレベルを超えてしまっているようです。
フローニンゲン大学の地球環境学者であるクラウス・フバチェク(Klaus Hubacek)氏は、プラネタリー・バウンダリーの観点から、持続可能なレベルで地球に暮らすには何をすべきかについて研究を続けてきました。
その中で地球環境に重大な悪影響を与えていると見られたのは、やはり「温室効果ガスの排出量」でした。
そこでフバチェク氏は、温室効果ガスの人為的な排出量を効果的に削減するために、どのような人口が最も温室効果ガスを排出しているのかを地球規模で詳しく突き止めることにしました。
フバチェク氏らは今回、世界168カ国における201のグループを対象とする広範なデータセットを分析し、それぞれの温室効果ガスの排出量を調べました。
その結果、世界人口の最も豊かな1%の富裕層(約5100万人)は、下位50%(約40億人)の貧困層が排出する温室効果ガスの50倍もの量を出していることが判明したのです(下図を参照)。
これは経済面だけでなく、地球資源の消費量においても多大なる貧富の格差が生じていることを指し示しています。
では、なぜ富裕層はこれほど多くの温室効果ガスを排出しているのでしょうか?
それにはいくつもの要因があります。
まず一つ目は富裕層に特有の高消費ライフスタイルです。
上位1%の富裕層は頻繁な航空機の利用や何十台もの高級車の所有、大豪邸の維持に使われるエネルギー量や広大な土地面積など、温室効果ガスを大量に排出するライフスタイルを送っています。
特にプライベートジェットの使用は、一般的な商業航空機よりも一人当たりの排出量が高く、環境への負荷が大きいとされています。
2つ目は贅沢品の消費です。
プライベートジェットもそうですが、他にメガヨットや宇宙旅行なども膨大な量の温室効果ガスを排出します。
先行研究によると、1回の宇宙旅行のために排出される炭素量は、排出量が少ない下位10億人が一生で排出する炭素量を上回ることが報告されているのです(The World #InequalityReport 2022)。
この他にも「超」のつく富裕層は化石燃料産業への投資を通じて、間接的に高い温室効果ガス排出を促進していたり、自らの利益を守るため、自らの政治的な影響力によって環境規制政策の緩和を推し進めることがあります。
このように上位1%の富裕層たちは、自分たちが過度に贅沢に暮らすために、地球の資源を大きく無駄遣いし、環境のバランスに負担をかけているのです。
フバチェク氏らは、これら超富裕層を含む上位20%の人々が消費行動を持続可能なパターンにシフトすれば、環境への悪影響を25〜53%削減できると結論づけています。
超富裕層は莫大な温室効果ガスの排出によって温暖化に拍車をかけていますが、その煽りを受けるのは結局、貧困層です。
貧困層の人々は自然災害や気候変動の影響を受けやすい場所に住んでおり、例えば、島の沿岸部は海面上昇によって沈みつつあり、低地では洪水が頻発しています。
また干ばつによる食糧不足が発生すると、富裕層は経済力に物を言わせて食料を入手できますが、貧困層は容易に食糧難に陥ります。
こうした不平等を止める対策が是非とも必要になるでしょう。
参考文献
Can we live on our planet without destroying it?
https://www.rug.nl/fse/news/climate-and-nature/can-we-live-on-our-planet-without-destroying-it
元論文
Keeping the global consumption within the planetary boundaries
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08154-w
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部