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専門家らは今、その新たな治療法の一つになりそうな方法としてマッサージに注目しています。
中でもADHD患者に対して最適とされるのは「タクティール・マッサージ」です。
タクティール・マッサージとはスウェーデン発祥の緩和ケア療法であり、ツボや筋肉を強めに刺激する従来のマッサージとは違い、優しく「触れる(tactile)」ことを基本にしています。
穏やかな肌のふれあいを通してオキシトシン(幸せホルモンとして知られる)の分泌を促し、体をリラックスさせる副交感神経を活性化させ、コルチゾール(ストレスホルモン)のレベルを低下させる効果があるのです。
(実際のタクティール・マッサージの動画は記事の最後に添付しておきました)
特に子供や青年期にあるADHD患者は外部ストレスへの感受性が高く、気持ちを落ち着けるのが難しいことが知られています。
そのため、タクティール・マッサージによって心の落ち着きを取り戻し、多動性や不注意といったADHD症状の改善が期待できると考えられているのです。
そこで研究チームは今回、10代のADHD患者を対象としたタクティール・マッサージの効果検証を行いました。
本調査ではADHDと診断されている15〜17歳の青年男女14名を被験者としました。
実験期間は2021年12月〜2022年9月にわたり、一定期間ごとに被験者のADHD症状のレベル(多動性・不注意・反抗的態度・睡眠の質・ストレスレベルなど)を測定しています。
また客観的な症状の変化を調べるため、被験者の保護者にも質問調査を実施しました。
タクティール・マッサージによる介入期間は2022年2月〜6月までで、被験者は週10回のマッサージ(各セッションは1時間)を専門の療法士によって受けてもらいます(下図を参照)。
マッサージは背中・腕・手足を中心に、ゆっくりとしたリズミカルなストロークで行われました。
その環境は薄暗い照明に穏やかな音楽、無香料のオイルを使用して、心を落ち着かせるように設計されています。
実験終了後までにマッサージに関連する不快感や体の痛みを訴えた被験者はいませんでした。
そしてデータ分析の結果、被験者と保護者の両方がマッサージ介入によってADHD症状が改善していると報告したことがわかりました。
症状の有意な改善は6回目のセッションまでにすでに見られており、被験者のADHD症状を評価する質問では、不注意と多動性のスコアが低下し、反対に集中力のスコアが高くなっていたのです。
また睡眠の質も改善されており、マッサージ介入前と比べて入眠までの時間が短くなっていました。
保護者の回答でも、被験者の多動性や不注意が明らかに減っており、さらにADHD患者によく見られる「反抗挑戦性障害(ODD)」も減少していると報告されています。
ODDはその名の通り、外部刺激やストレスに対して敏感であることから、周囲にすぐ反抗したり、怒ったり、拒否する行動を指します。
この結果を受けて、研究主任のアンナ=カリン・ロベルツ(Anna-Carin Robertz)氏は「タクティール・マッサージが青年期のADHDの多動性および不注意、それから睡眠の質と反抗性を改善できる可能性が示された」と指摘。
「従来の治療法に取って代わるものではありませんが、既存の治療法を補完し、症状のさらなる改善を促すものとして応用できるのではないか」と話しました。
その一方で、今回の調査は被験者数が非常に少ない点で限界もあり、すべての国の10代にも同じ効果が期待できるかどうかはわかりません。
それから気になるのは、成人後の大人のADHDにもタクティール・マッサージが有効なのかどうかでしょう。
しかしタクティール・マッサージは性別・年齢を問わず、万人に対して有効なため、大人のADHDにも十分に効果を発揮する可能性は期待できます。
ただ大人に対する本格的な検証実験は行われていないため、これに関しても今後の追加調査が必要です。
マッサージがあらゆる年代のADHD患者に有効であることが確認できれば、患者にとって最もストレスや負担の少ない治療法となるかもしれません。
こちらがスウェーデンで行われているタクティール・マッサージです。
参考文献
Can massage help with ADHD? Study finds reduced hyperactivity and inattention
https://www.psypost.org/can-massage-help-with-adhd-study-finds-reduced-hyperactivity-and-inattention/
元論文
Positive effects of tactile massage for adolescents with Attention Deficit/Hyperactivity Disorder (ADHD) – A small scale study
https://doi.org/10.1016/j.ctcp.2024.101909
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部