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そこで専門家らは、ポリスチレンで作られた発泡スチロールを効率的に処理できる方法がないものかと模索してきました。
その中で見つかった解決策の一つが「ミールワーム」です。
ミールワームはゴミムシダマシという甲虫の幼虫期を指し、主に飼育用の生き餌として流通しています。
しかし過去の研究で、ミールワームの中に発泡スチロールを食べて分解できる能力を持つ種がいることが報告されていました。
例えば、豪クイーンズランド大学による報告では、中南米原産の「ゾフォバス・モリオ(Zophobas morio)」という種の幼虫が発泡スチロールをエサとして食べられることがわかっています(Microbial Genomics, 2022)。
他にもプラスチックの消費能力を持つミールワームの報告例はありますが、その一方でアフリカを原産とするミールワームの中に同じ能力を持つ種がいるかどうかは不明でした。
ところが今回、ケニアのナイロビに拠点を置くICIPEの研究チームにより、ついにアフリカ出身でプラスチックを分解できるスーパーワームが見つかったのです。
今回、調査対象となったのはアフリカ原産の甲虫・ガイマイゴミムシダマシ(学名:Alphitobius diaperinus)の幼虫であるレッサーミールワームです。
レッサーミールワームの幼虫期間は8〜10週間であり、暖かく、常に餌にありつける養鶏場などによく見られるといいます。
また本種はアフリカ出身ですが、現在では世界の多くの国にも広がっているとのことです。
チームは飼育下にあるレッサーミールワームを用いて、ポリスチレンを原材料とする発泡スチロールを分解できるかどうかを検証。
その結果、レッサーミールワームには発泡スチロールを食べて、自然分解できる能力があることが確認されました。
さらにチームはレッサーミールワームを3つのグループに分けて、それぞれの条件で発泡スチロールの消費の仕方がどう変わるかをテストしています。
1つ目は発泡スチロールのみを餌として与えた条件。
2つ目は栄養価の高い「ふすま(小麦をひいて粉にした後に残る皮)」のみを餌として与えた条件。
3つ目は発泡スチロールとふすまを混ぜて与えた条件です。
その結果、発泡スチロールとふすまを混ぜた条件では、発泡スチロールのみを与えた条件に比べて、レッサーミールワームの生存率が高く、より多くの発泡スチロールを食べていることがわかりました。
これは栄養豊富なふすまを程よく混ぜることで、レッサーミールワームの発泡スチロール分解能力がさらに高まることを示唆するものです。
さらにチームは、レッサーミールワームのプラスチック分解を可能にしている腸内細菌も明らかにすることに成功しました。
発泡スチロールを与えられたレッサーミールワームの腸内には、さまざまな化学物質を分解できる細菌として有名な「プロテオバクテリア」と「ファーミキューテス」が多く含まれることを見出したのです。
この他にも、クライベラ、ラクトコッカス、シトロバクター、クレブシエラといったプラスチックを分解できる酵素を産生する細菌が多く見られました。
つまり、発泡スチロールを自然分解しているのはレッサーミールワーム本人というよりも、レッサーミールワームの腸内に潜む細菌が作り出している酵素なのです。
しかもこれらの細菌は大規模に使用しても、昆虫や土壌環境に害を及ぼすことはありません。
そこで研究者らは、大量に廃棄された発泡スチロールを分解処理するシステムとして、これらの細菌(および細菌が作り出す酵素)を使った方法を開発したいと考えています。
要するに、レッサーミールワームがうじゃうじゃいる穴の中に発泡スチロールを捨てるといった原始的な方法ではなく、レッサーミールワームから分離した細菌を培養し、それを使ったより効率的な方法で発泡スチロールを処理するのです。
チームは今後、大規模な発泡スチロール廃棄物を安全かつ効率的に分解できるような微生物溶液の開発が可能かどうかを検討していきたいと話しています。
では最後に、発泡スチロールを分解するレッサーミールワームの実際の画像を見ておきましょう。
※ 苦手は方はここまでの閲覧にしておいてください。
こちらがミールワームによる発泡スチロール分解能力を検証した実験の様子です。
Aは実験前の発泡スチロール、Bは実験後の発泡スチロール、Cは発泡スチロールとふすまを混ぜた餌を食べるミールワーム、Dは発泡スチロールのみを餌とするミールワームです。
なかなか刺激的ですが、本当にミールワームが発泡スチロールを食べていることがわかります。
ただ先ほども話しましたように、プラごみ処理システムを開発する際は、このように大量のミールワームを用いるのではなく、彼らから分離した細菌(およびその酵素)を使った方法が考えられています。
見た目はかなり強烈ですが、ミールワームは人類が生み出したプラごみ問題を解決できるヒントを持っているのです。
参考文献
Plastic-eating insect discovered in Kenya
https://theconversation.com/plastic-eating-insect-discovered-in-kenya-242787
Can the mealworm be the answer to Africa’s plastic waste problem?
https://www.icipe.org/news/can-mealworm-be-answer-africa%E2%80%99s-plastic-waste-problem
元論文
Mitogenomic profiling and gut microbial analysis of the newly identified polystyrene-consuming lesser mealworm in Kenya
https://doi.org/10.1038/s41598-024-72201-9
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部