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2007年に登場したiPhoneは、当時、画期的なデザインとシステムを備えていました。
それまで一般的だった物理ボタンを使用した携帯電話(今で言うガラケー)とは異なり、タッチスクリーンによる直感的な操作が、ユーザーの心をつかんだのです。
それ以来、タッチスクリーンは一般的な技術になり、車や冷蔵庫など、あらゆるものに導入されました。
iPhoneが世の中から物理ボタンを無くしていったのです。
このことを分かりやすく示した事例は、携帯端末「BlackBerry(ブラックベリー)」の終焉でしょう。
このBlackBerryは1999年に販売された携帯端末であり、「スマホの元祖」とも言える存在でした。
オフィスの外にいながら、オフィス環境と同等のメールやブラウザが利用できることをコンセプトに置いた端末であり、特にビジネスマンたちの心をつかむことに成功しました。
従来の携帯電話とは違って、QWERTY配列キーボードが搭載されていたことも大きな特徴でした。
ビジネスマンたちは、オフィスでパソコンを打っているかのように、携帯端末でメールを打てることを喜んだのです。
一時期アメリカでは、当時のスマホ利用者の約37%がBlackBerryユーザーであるほど人気を博し、日本でも4000社ほどがBlackBerryを導入しました。
しかし、雲行きが怪しくなったのは2007年、iPhoneの登場でした。
iPhoneのタッチスクリーンは、ビジネスマンだけでなく、一般ユーザーの心をつかむことに成功し、物理ボタンに頼ったBlackBerryを徐々に追い込んでいったのです。
様々な企業もタッチスクリーンを利用したスマホを開発し、2011年には、AndroidとiPhoneのユーザー数がどちらもBlackberryのユーザー数を追い抜くことに。今やBlackberryは見る影もありません。
一世を風靡したBlackberryは、物理ボタンと共にあっという間に時代遅れになってしまったのです。
そして、携帯電話以外の様々な分野で、似たような現象が生じました。
冷蔵庫やコーヒーメーカーなどの家電製品、そして車などから物理ボタンが徐々に無くなっていき、「ボタンの終焉」に関するニュースや話題が盛んに取り上げられるようになりました。
タッチスクリーンが普及し始めた当時、多くの人々は、「物理ボタンに頼らない新たな時代が来る」と感じていました。
しかし現在、初代iPhoneが登場してから17年が経った今でも、物理ボタンは世の中から完全には無くなっていません。
それどころから、復活の兆しを見せています。
物理ボタンの歴史について研究しているインディアナ大学ブルーミントン校(Indiana University Bloomington)のレイチェル・プロトニック氏は、タッチスクリーンと物理ボタンについて、次のように語っています。
「タッチスクリーンに対する熱が高まり、突然あらゆるものがタッチスクリーンになりました。
しかし、時が経つにつれて、人々はタッチスクリーンに飽きてしまいました。
タッチスクリーンが不便なインターフェースだと感じているわけではありません。
ただ人々はタッチスクリーンの利点を知った上で、物理ボタンに飢えているのです。
なぜなら、物理ボタンは触って感じることができ、ボタンの位置を常に目で見る必要がないからです」
実際、タッチスクリーンが普及しても、物理ボタンに置き換わっていないインターフェースは数多く存在します。
例えば、ビデオゲームをプレイするゲーマーは、スクリーンに集中するため、物理ボタンの付いたコントローラーを好みます。
またボタンが復活しているケースも数多くあります。
車のダッシュボードでは、様々なボタンやレバーが一度、タッチスクリーンになりました。
しかし私たちは、運転中の操作は、タッチスクリーンよりも従来の物理ボタンやレバーの方が容易かつ安全であることに気づきました。
その結果、物理的なインターフェースが再び採用されるようになっています。
実際、私たちはタッチスクリーンを操作する時、必ずタッチスクリーンを見なければいけません。
視線を別の方向に向けている状況では、操作できないか、誤操作を覚悟しなければいけません。
また、視覚障がい者たちはタッチスクリーンの扱いを難しく感じており、このこともタッチスクリーンが視覚に頼ったインターフェースであることを示しています。
こうしたインターフェースの特徴は、特にミスが許されない場面でタッチスクリーンよりも物理ボタンが好まれる理由を明らかにしています。
タッチスクリーンでハンドルやアクセル・ブレーキを操作したい人がいないのも同じ理由でしょう。
さらにプロトニック氏は、「人々がスクリーンを見ることに疲れていることもボタンの復活に関係している」と話します。
私たちは昼も夜もデジタル機器を利用し、1日に何時間もスクリーンを見たりスクロールしたりして疲れています。
そんな現代の私たちは、触覚を頼って操作がしやすい物理ボタンを求め、その存在を心地よく感じてしまうのです。
タッチスクリーンを世界に広めたiPhone でさえ、その最新モデルであるiPhone 16では2つの新しいボタンを追加しています。
確かに現代では、「物理ボタンの復活」が始まっています。
しかしこの現象が、タッチスクリーンを終焉へと追い込むことはないでしょう。
どちらの利点も十分に理解できた今だからこそ、それぞれのインターフェースが得意な分野で活用されていくだけなのです。
参考文献
Touchscreens Are Out, and Tactile Controls Are Back
https://spectrum.ieee.org/fitbit
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部