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これまでに月面を歩いた人類の数は、合計で12人です。
この数字を聞いて、「そんなにいたの?」とびっくりする人も多いかもしれません。
それもそのはず、アポロ計画では約3年5カ月の間に計6回の月面歩行調査が行われましたが、最初の2人が月面に到着して以降、人々の関心は急速に薄れてしまい、人類が月面を歩いた最後のミッションについては、テレビで放送されることすらほとんどなかったのです。
逆に「月面を歩いた人は、意外と少ないのだな」と感じる人もいるかもしれません。
この感想も不思議ではなく、一番最近のミッションが1972年12月であり、それ以降は誰も月面を歩いていないのです。
ではこの月面を歩いた貴重な12人はどのような人たちで、一体どんな事実を明らかにしていったのでしょうか?
1969年7月20日、アポロ11号に乗った宇宙飛行士ニール・アームストロング氏とバズ・オルドリン氏は、人類史上初めて月面歩行した人間となりました。
彼らの月面歩行は2時間15分にも及び、その間に月面を探索し、科学機器の設置やサンプルの採取などを行いました。
そしてアームストロング氏は、最も有名な言葉の1つである、次の台詞を残します。
「これは1人の人間にとっては小さな1歩だが、人類にとっては偉大な飛躍だ(That’s one small step for [a] man, one giant leap for mankind.)」
ケネディ宇宙センターからの打ち上げや、月への着陸、人類で初めての月面歩行は、アメリカだけでなく、世界中の人々から注目されました。
ちなみに打ち上げでは、推定100万人の観衆が発射場周辺から見守っていました。
そして地球に帰還した後は、ニューヨークとシカゴで、推定600万人の見物客の中、盛大な祝賀パレードが行われました。
このアポロ11号のサンプル採取は、月の地質構造や形成の歴史を解明するための重要な一歩となりました。
特に、持ち帰られた月の岩石は、地球と異なる環境で形成された特徴を持ち、月が地球と異なる天体環境で進化してきたことが示されました。しかし、岩石の成分分析からは地球と月に類似性も見られ、地球と月が共通の起源を持ち、巨大な衝突によって月が誕生したとする『巨大衝突説』の研究を進展させました。
アポロ11号の乗組員が最初の月面歩行を成し遂げてからわずか4カ月後、その後継機であるアポロ12号が月面に着陸。人類の2度目の月面歩行を成し遂げました。
それは1969年11月19日のことでした。(アポロ12号の月面着陸日は11月18日で、月面歩行は翌19日に行われた)
3人目と4人目の月面歩行者は、船長のチャールズ・ピート・コンラッド氏と、月着陸船操縦士のアラン・ビーン氏でした。
彼らは1日と7時間にわたって月面で船外活動を行うことができました。
このミッションでは、アポロ11号よりも前に、月面の探査を行っていた無人探査機サーベイヤー3号の近くに着陸できたため、コンラッド氏たちは、月に取り残されたサーベイヤーから機器を取り外して地球へ持ち帰ることができました。
これによりアポロ12号の調査では、月面環境の過酷な条件に約2年半さらされた機器がどのように変化したか検証することができ、月の表面の宇宙放射線や極端な温度変化など、将来的な月面基地の設計に向けた知見が得られたといいます。
ちなみに、アポロ12号には、月面からの映像を向上させるために、11号で使われたモノクロではなく、カラーのテレビカメラが持ち込まれました。
しかし、ビーン氏が誤ってカメラのレンズを太陽に向けたため破損。月面からのカラー中継は開始直後に頓挫することになりました。
アポロ13号は月に向かう途中のアクシデントにより、ミッション中止が余儀なくされました。
月面着陸はできなかったものの、乗組員は全員無事に地球へ帰還できました。
そのため、人類が3度目に月に到達したのは、1971年2月5日のことでした。
月を歩いた5人目と6人目は、アポロ14号に乗ったアラン・シェパード氏とエドガー・ミッチェル氏でした。
アポロ14号もトラブルに見舞われましたが、それほど深刻なものではなくミッションを完遂しました。
アポロ14号では、特に『地球のマントルと類似する成分』を持つ岩石が発見され、月と地球が共通の起源を持つ可能性が示唆されました。ここからは月の岩石には地球とのつながりと、月独自の環境による変成の両方が反映されており、月が地球科学の理解を深めるための重要な手がかりとなると示されたのです。
ちなみにシェパード氏は、アポロ計画での最年長宇宙飛行士(47歳)であり、マーキュリー計画で選ばれたアメリカ初の7人の宇宙飛行士の1人でした。
そしてこのミッションで最も有名な出来事と言えば、シェパード氏が地球からゴルフクラブを持っていき(実際にはヘッドのみを持っていき採取ツールの先端に取り付けた)、2つのゴルフボールを打ったことでしょう。
シェパード氏は一球目をミスショットしましたが、二球目は上手く飛び、「何マイルも飛んだ!」と冗談交じりに報告しています。
実際はボールは約200ヤード(約183メートル)飛んだとされており、月面での低重力環境が実際の飛距離に大きく影響することが示されています。
シェパード氏はこのようなユーモラスな物理実験を月面で行うことで、ミッションの固いイメージを和らげ、月面調査への一般の関心を高めるとともに、無重力環境が物体の運動に与える影響についてもわかりやすく示したのです。
ここまでで3度の月面着陸が成功し、計6人の宇宙飛行士が月面に降り立ちました。
しかしこうした成功は、次第に月面着陸を当たり前のニュースにしてしまい、人々の関心を月から遠ざけてしまいました。
それでも、人類の月面へのアプローチはしばらく続きます。
1971年7月30日、アポロ15号に乗ったデビッド・スコット氏と、ジェームズ・アーウィン氏は、月面に到着しました。
月を歩いた7人目と8人目です。
この時点で、NASAは既に予算削減を予想しており、月を最大限に活用するためにミッションにいくつかの変更を加えました。
その1つが月面車の最初の使用です。
この月面車のおかげで、これまでの徒歩と比べて、はるかに遠くまで探査することが可能になり、より多くのサンプルを採取することが可能になりました。
これによりアポロ15号では合計18時間以上の船外活動により、月面から77kgものサンプルが採集されてします。
そしてスコット氏は、物体は質量に関係なく同じ加速度で地面に落ちることを示す「ガリレオの実験」を行いました。
大気の影響を受けない月面で重いハンマーと軽い羽を同時に落とし、ガリレオの主張が事実であることを実証したのです。
NASAはアポロ15号を、「それまでに行われた中で最も成功した有人宇宙飛行だった」と表明しています。
1972年4月21日、アポロ16号に乗ったジョン・ヤング氏と、チャールズ・デューク氏が月面に着陸しました。
彼らは月を歩いた9人目と10人目の人類となったのです。
2人は月面でほぼ3日間を過ごし、この間に通算で3度の船外活動を行いました。
このミッションでも月面車が使用され、2人は合計で95.8kgのサンプルを採集し、地球へ持ち帰りました。その中には、月から持ち帰った最大の岩石(11.7kg)も含まれています。
アポロ16号では、月の高地地域を主に探索し、高地の岩石サンプルが持ち帰られた初めてのミッションとなりました。これにより、月面全体の地質的な多様性も明らかになり、月の地質構造や形成プロセスを解明する上で重要な発見がもたらされました。
1972年12月11日、アポロ17号に乗ったユージン・サーナン氏と、ハリソン・シュミット氏が、月面に着陸しました。
11人目と12人目であり、2024年現在、彼らが月面を歩いた人類最後の宇宙飛行士です。
アポロ17号は、アポロ計画における最後の飛行であり、史上6度目にして最後の有人月面着陸を行ったのです。
NASAはアポロ計画を良い形で終わらせたいと考え、アポロ17号では、より長いミッションが行われました。
17号のミッションでは、最も長く宇宙に滞在し、最も長く月面活動を行い、最も多く月面からサンプルを持ち帰り、最も長く月周回軌道に滞在するなど、数々の記録を打ち立てたのです。
この最後のミッションでは、初めて正規の科学者(シュミット氏)が同伴しました。
アポロ計画では、宇宙飛行士の多くは軍のパイロットや航空エンジニアなど、主に操縦やミッション遂行能力を重視したメンバーで構成されていたため、科学者がついていくというのはこれが初めてだったのです。
シュミット氏は地質学者であり、アポロ17号で収集された大量のサンプルや詳細な地質データは、月面地質学の理解を大きく進展させました。特に、この調査では月の火山活動の痕跡も発見され、月の進化過程の新たな側面が浮き彫りにされました。
また、このシュミット氏は月の塵にアレルギー反応を起こした人類最初の人物となりました。
これほど目を引く記録があるにも関わらず、このミッションはテレビでほとんど放送されませんでした。
月面着陸も6回を数えると、それはゴールデンタイムを賑わすビッグイベントではなく、日常的なものになっていたのです。
この事実は、一般の人々に科学調査研究に関心を持ってもらうことの難しさや、その意義を伝えることの難しさを示していると言えるでしょう。
人類が最後に月面を歩いたのは、1972年です。
アポロ計画の終了後、NASAは宇宙開発の優先順位を変化させてきました。
月面での活動の後は、人類の低軌道上での活動や、長期滞在型の宇宙ステーションに注力する方向へとシフトしたのです。
また他の惑星への探査計画の関心が高まり、月面探査よりも火星探査や宇宙望遠鏡による深宇宙観測に予算や技術が振り向けられるようになりました。
これは人々の関心も同様であり、月面歩行に関する話題やニュースはあまり見られなくなりました。
では、人類は再び月面を歩くことはないのでしょうか。
そうでもありません。
近年では「スペースX」などの民間企業が宇宙探査に積極的に取り組んでおり、月に対する関心も再び高まっています。
またNASAも、再び有人の月面着陸を目指す「アルテミス計画」を立てています。
目標は「最初の女性を、次の男性を」月面に着陸させることであり、2019年5月に発表されました。
当初は2024年までにミッションを実施する予定でしたが、新型宇宙船の改善により遅延しています。
今のところ、アルテミス3号のミッションが2026年に計画されており、もしかしたらあと数年で、人類13人目の月面歩行者が誕生するかもしれません。
人類の月面での歩みはこれからも続くのです。
参考文献
How Many People Have Walked On The Moon? It’s A Lot More Than Two
https://www.iflscience.com/how-many-people-have-walked-on-the-moon-its-a-lot-more-than-two-76518
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部