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その原因の1つが「キャラクターの魅力の無さ」だと言われています。
コンコードではDEIに配慮したキャラクターデザインが採用されており、これまでのゲームでは当たり前だった美男美女が出てこず、男女の差異がなかったり、標準的ではない体型だったりするキャラクターが多数登場するのです。
こうしたゲーム内での配慮が社会的に良いか悪いかはともかく、ゲーマーたちのプレイ意欲は大きくそがれることになりました。
では、世界中の多くの人が多様性を主張し、性別や体格における差別を無くすよう求めているはずなのに、なぜゲームではそれが購入やプレイなどに反映されないのでしょうか。
こうした疑問に少しでも答えるため、今回リンチ氏ら研究チームは、格闘ゲーム『ソウルキャリバーVI』を用いて、どんな女性キャラクターが望まれているか調査しました。
『ソウルキャリバーVI』は、事前に用意されている固有のキャラクターでプレイできるだけでなく、多種多様なパーツや武器を選択してオリジナルのキャラクターを作成してプレイできます。
研究チームは、このシステムを利用し、実験用に「セクシーさ(性的表現)」や「体格」に着目した独自の女性キャラクターを4タイプ作成しました。そのタイプは以下の通りです。
ちなみに、「性的表現が高い」キャラは、胸とお尻が大きくてウエストが細く、露出度の高い服装をしています。
体格に関しては、弱々しい女性なのか、強そうな女性なのかという、主に強さの表現が意識されています。
そして実験には239人(18~51歳)の学生(大半は女性)が参加し、それぞれのキャラクターが戦う動画を視聴しました。
その後、参加者たちはそれぞれのキャラクターについて、性的表現、強さ、女性らしさ、好感度などを評価しました。
またそのアンケートの後には、どのキャラクターでプレイしたいか回答しました。
その結果、参加者たちは、性的表現が高く強いキャラクターを「より性的な魅力が高い」と認識しました。
つまり、格闘ゲームにおいて、「強さ」は、「性的表現」の効果を打ち消さず、むしろ増幅する可能性があると言えます。
また、性的表現の度合いが高いキャラクターは、「女性らしい」と見なされるものの、特に女性の参加者からは好感度が低いと分かりました。
世間でポリコレやDEIの話題になる際に女性たちが主張するように、やはり彼女たちは、セクシーな女性キャラクターに嫌悪感を抱く傾向にあったのです。
リンチ氏も「参加者が性的に描かれた女性キャラクターを嫌っていたことに驚きはなかった」と語っています。
しかし、この実験では、研究チームの予想を裏切る「意外な展開」が見られました。
なんと、実験に参加した女性たちは、性的な要素が強い女性キャラクターを嫌うものの、実際にキャラクターを選択する場面では、そのようなセクシーな女性キャラクターを選ぶ傾向が強かったのです。
では、どうして矛盾するような結果が得られたのでしょうか。
私たちがゲームのキャラを選択する時、「自分とは全く別のタイプのキャラを選択する場合」もあれば、「自己投影しやすいキャラを選ぶ場合」もあります。
おじさんがおっさんキャラで遊びたい場合もあれば、美少女キャラを操作したい場合もあるように、女性の場合は、自分に似たキャラを操作したいときもあれば、自分の理想の女性キャラを操作したい場合もあるわけです。
研究チームは、今回のケースが後者に該当しており、多くの人は自己の投影より理想のキャラを操作したい傾向があり、女性参加者たちは「理想の女性」と「性的な魅力や表現」を結び付けていると推測しています。
そしてその推測を裏付ける点として、この研究の調査では、女性参加者たちが、このセクシーな女性キャラクターを「より女性らしい」と評価することが分かっています。
つまり女性たちは、性的に誇張されたデザインを嫌悪しつつも、「それら性的な要素がキャラクターをより女性らしく魅力的だ」と感じているわけです。
このような、一見矛盾しているようにも思える女性の反応は、最近のポリコレやDEIに配慮したゲームに対する世間の複雑な反応をいくらか説明しているようにも思えます。
ある人々は、ポリコレやDEIに対する配慮から、性的表現が高い女性キャラクターの排除を求めはするものの、心のどこかではそうしたキャラクターこそが女性らしいと感じており、そのキャラでプレイしたいのです。
とはいえ、今回の研究には、「サンプルサイズが小さいこと」「RPGよりもマイナーな格闘ゲームを採用したこと」などいくつかの限界があり、こうした点も考慮しなければいけません。
格闘ゲームはカッコよく戦って勝つことが目的であるため、アドベンチャーゲームなどのジャンルを対象にした場合、今回とは異なる結果が示される可能性もあるでしょう。
先に例に上げたコンコードについても、失敗の理由はすでに成熟した市場である対戦型FPSへの参入に出遅れたこと、基本無料が当たり前の対戦型FPSを有料コンテンツとして配信した点も指摘されており、単純にキャラデザだけで失敗したとは言い切れません。
それでも、今回の研究結果に納得感を持つ人は多いでしょう。
近年、ポリコレやDEIへの認識は急速に高まりましたが、研究では人々のDEIに対する意識と、実際ゲームで「プレイしたいキャラクターのタイプ」には大きな隔たりがある可能性が示されました。
今後、ゲーム業界がどちらに振り切るのか、またプレイヤーの好みが時間をかけて変わっていくのかは謎ですが、メーカーの試行錯誤と人々の議論はしばらく続きそうです。
参考文献
New research on female video game characters uncovers a surprising twist
https://www.psypost.org/new-research-on-female-video-game-characters-uncovers-a-surprising-twist/
元論文
Examining How Sex Appeal Cues and Strength Cues Influence Impressions of Female Video Game Characters
https://doi.org/10.1177/00936502241279625
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部