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その一方で、研究者たちは以前から「音響刺激を使うことでトリコデルマ菌の成長をより活発化させられるのではないか」と考えました。
過去の先行研究では、ある種の音の周波数が微生物や菌類の成長および活動に変化をもたらすことは十分にわかっています。
もし音響刺激でトリコデルマ菌の成長が促進できれば、植物の生態系にもプラスの作用が現れるかもしれません。
そこで研究チームは今回、トリコデルマ・ハルチアナムを対象にホワイトノイズを聴かせる実験を行いました。
チームは実験で、ペトリ皿上で培養したトリコデルマ・ハルチアナムを2つのグループに分け、一方にホワイトノイズを聴かせ、もう一方には何もせずに放置しました。
ホワイトノイズは80デシベル(dB)の音圧に設定し、1日30分を計5日間にわたり聴かせ続けています。
ホワイトノイズとは、すべての音の周波数が同じ強度となるノイズのことで、雨が降っているような「シャー」という音です。
これまでの研究で、ホワイトノイズには人に対して背景の雑音を効果的にマスキング(覆い隠す働き)し、睡眠の質を改善したり、集中力を高める効果があることがわかっています。
ホワイトノイズのサンプルはこちら。音量に注意してご視聴ください。
また実験で設定した80dBは、一般的なささやき声が30dB、洗濯機が60dB、セミの鳴き声が70dBですから、私たちが聞くとかなりの騒音となります。
しかし実験の結果、トリコデルマ菌はまるでホワイトノイズを一種の栄養源として食べているようでした。
ホワイトノイズを聴いたグループは無音で放置したグループに比べて、菌の成長スピードがはるかに速く、多くの胞子を作るようになったのです。
これは明らかにトリコデルマ菌の働きがホワイトノイズによって活発化していることを示すものでした。
どうしてホワイトノイズを聴かせるとトリコデルマ菌の成長が促されるのか、その正確なメカニズムはまだ解明されていません。
ただし研究者らは、ホワイトノイズに特有の周波数が振動刺激として、トリコデルマ菌の成長メカニズムを活性化させた可能性が高いと見ています。
おそらく、ホワイトノイズの振動刺激がトリコデルマ菌に何らかの生化学的シグナルを発生させ、それが細胞生産や遺伝子発現に影響を与えたと考えられています。
その一方で、今回の知見はまだ「ホワイトノイズでトリコデルマ菌の成長が促進された」との事実が判明しただけで、具体的な実用段階には入っていません。
同じ方法が自然下の土壌中に潜むトリコデルマ菌たちにも通じるのか、またトリコデルマ菌の働きが活発化することで植物にどのようなプラスの作用が現れるのかについても、今後のさらなる調査が必要です。
しかしもしホワイトノイズによるトリコデルマ菌の活性化で、植物の健康レベルが高まるのであれば、農業分野や森林保護において大きな利益が得られるかもしれません。
参考文献
Good sounds for saving soil
https://news.flinders.edu.au/blog/2024/10/02/good-sounds-for-saving-soil/
White Noise Is Like Music to These Microbes, And It Helps Them Thrive
https://www.sciencealert.com/white-noise-is-like-music-to-these-microbes-and-it-helps-them-thrive
元論文
Sonic restoration: acoustic stimulation enhances plant growth-promoting fungi activity
https://doi.org/10.1098/rsbl.2024.0295
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部