- 週間ランキング
眼鏡をかけたり、帽子を被るなど、変装をすることで、どれくらい周りの人を欺けるのでしょうか。
多くの人は変装で他者を欺けるのはアニメや漫画の話で、現実世界では「こんな簡単に人を騙せないはず」と思ったことがあるのではないでしょうか。
たしかに現実世界では、アニメなどのようにゴムマスクで他人の顔を完全に作るというのはかなり難しいでしょう。
しかし、私たちは日常生活の中で、相手の顔の特徴だけでなく、服装や表情などのさまざまな要素をもとにその人のアイデンティティを認識しているものです。
実際逃亡犯や有名人は、変装によって正体を上手く隠して生活しています。
では、私たちはどの程度変装を見抜くことができるのか試してみましょう。
上記の写真は同一人物でしょうか、別人でしょうか。
髪型をはじめ、髪の色、眼鏡の有無、表情が大きく異なりますが、2枚の写真の被写体は同一人物です。
実際、このように人を欺くのに変装が効果的なのかを調べた研究があります。
それはヨーク大学のロブ・ジェンキンス氏らの研究です。
彼らは、変装あり・なしの写真を用意するため、まず被写体となる参加者26名を集めました。
参加者には普段の写真、自分っぽくない変装をした写真と別の誰かになりきる変装をした写真を提出してもらっています。
変装は、頭の形や目、鼻、口が隠れないように、帽子やスカーフ、マスクなどの小道具の使用を禁止していました。
そして、別で雇った大学生30名に、上記のような2枚の写真を提示し、同一人物か別人か見抜けるかを検討しています。
さて、変装はどれくらいの割合で見抜くことができたのでしょうか。
実験の結果、変装をすることで同一人物かどうかを見分ける確率が約30%減少することが分かりました。
変装を見抜くことができていたのは、被写体と知り合いの人がほとんどで、彼らは見覚えのある目や鼻、口の特徴を手掛かりにして変装を見抜くことができていました。
一方で、被写体の人物と知り合いでない人はほぼ見抜けず、偶然の判断と同じレベルにまで低下したのです。
また被写体の人物と知り合いでない人は、「変装してる人がいますよ」とヒントが与えられている場合でも、変装を見破れる確率は約30%減少しました。
そして最もばれにくいのは誰かの見た目に寄せる変装よりも、普段の状態から真逆の変装、自分らしくない変装をすることだったのです。
上は研究で使われた写真の例です。「同一人物」のペアは、自分自身に似ないようにする回避変装をしており、「別人」のペアは、特定の対象人物に似せようとする「なりすまし変装」をしています。
これを見ると私たちは殆どの場合、雰囲気で相手を見分けていることに気づきます。変装によって自分と気づかれないようにする、あるいは他人になりすますことは、かなり有効なのです。
研究チームは「犯罪やセキュリティの場面で意図的な変装を軽視すべきではない。誰かが自分の身元を隠そうと本気になれば、変装で簡単に身元を隠すことができるだろう」と述べ、犯罪やセキュリティ面での変装が身元を隠す手段として効果的である事実に警鐘を鳴らしています。
この発見は、スパイや潜入任務の話だけでなく、現代社会におけるセキュリティやプライバシーに関する問題とも関連しています。
有名人が意外と気づかれずに街中を歩けるというのも、こうした効果によるものでしょう。
この研究結果は、顔認識技術が進化する中で人物の識別が容易になっている反面、人間に対しては見た目の些細な変化がいかに効果的にその人物の身元を隠すことができるのかを示唆しています。
参考文献
How To Make Yourself Look Unrecognizable
https://www.spring.org.uk/2023/02/look-unrecognisable.php
Catch me if you can: Study reveals disguises are surprisingly effective
https://www.york.ac.uk/news-and-events/news/2019/research/study-reveals-disguises-are-surprisingly-effective/
元論文
Deliberate disguise in face identification.
https://doi.org/10.1037/xap0000213
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
ナゾロジー 編集部