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地上で核兵器が絶大な破壊力を誇るのは、空気による衝撃波によるところが大きいからです。
空気がない宇宙空間では、敵をなぎ倒すような衝撃波はうまれず、発生するのは熱や放射線などに限定されてしまいます。
そのため「小惑星を核ミサイルで攻撃し、軌道を逸らして地球を救う」という比較的現実的な計画についても、懐疑的な声が多くみられます。
専門家レベルの知識を持つ人でも「小惑星に核を打ち込んでも表面を少し焦がすだけだ」と言う人もいます。
ですが何事もやってみないとわかりません。
そこで今回、サンディア国立研究所の研究者たちは、小惑星に対する熱や放射線の効果を確かめることにしました。
調査にあたってはまず、下の図のように、放射線の照射機と小惑星を模した石英とシリカの小石が用意されました。
図の左側から発射された強力なX線が真空を通って、ターゲット位置に固定された小石に照射されるのです。
また実験装置には速度計も備えつけられ、小石が動いた場合には移動速度も調べられるようになっていました。
もし懐疑派が正しければ、小石は表面を熱されただけで元の位置から動かないでしょう。
それはつまり、核兵器では小惑星の軌道を逸らせないことを意味します。
一方、もし小石がとんでもない速度で右側に飛んでいけば、核兵器などの放つ放射線や熱が小惑星の軌道を逸らす効果を持ち得ることを示します。
実験の準備が整うと、研究者たちはスイッチを入れました。
すると、予想を遥かに上回る結果が起こりました。
小石に強力なX線を放射するとどうなるのか?
謎を解明するため研究者たちはスイッチを入れ、X線を6.6ナノ秒間だけ照射しました。
実験装置は世界で最も強力なX線を発射できるため、6.6ナノ秒間の照射でもメガジュールクラスのエネルギーが小石に向けられたことになります。
すると照射を受けた側の小石の表面が瞬間的な蒸発し、膨張したガスはロケット噴射のように小石を押し出し、石英は時速250㎞(毎秒69.6m)、シリカは時速253㎞(毎秒70.3m)まで加速されたことがわかりました。
強力なX線が照射された部分が一瞬で気化され、その圧力に押される形で残った固形部分が飛んでいったわけです。
研究者たちは、この技術を大規模化していけば、最終的に直径4㎞の小惑星の軌道を逸らすことができると述べています。
ただそこまでいくと、核ミサイルを使うよりも巨大なX線照射砲を使ったほうが安上がりのような気もします。
研究者たちはNASAが人工衛星を小惑星に衝突させたダートミッションのように、実際の小惑星を使ったテストを行いたいと述べています。
参考文献
Proof-of-concept study uses X-rays to target mock-up asteroids in a vacuum
https://phys.org/news/2024-09-proof-concept-rays-mock-asteroids.html
元論文
Simulation of asteroid deflection with a megajoule-class X-ray pulse
https://doi.org/10.1038/s41567-024-02633-7
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部