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しかし、「独りでいることを好む人」は決して少なくありません。
自分が「独り好き」である場合や、家族や周囲の人がそうであるケースもあるでしょう。
そのように独りでいることを好む人の中には、「他人に対して人一倍気を使ってしまう」「過去に人間関係のトラブルがあった」「他人とのかかわりが煩わしくなった」「自分の趣味に没頭したい」という人たちがいることでしょう。
だからこそ、「誰かと接して疲れてしまうよりは、自分一人の方が楽だ」と感じるのかもしれません。
そして、なんとなく「自分は独りでいることが好きだから、孤立の悪影響は受けにくいだろう」とも感じているかもしれません。
周囲の人でさえ、「彼は独りが好きだから、それが一番幸せなのだ」と考えているかもしれません。
では、本当に「独り好きは孤立の悪影響をあまり受けない」のでしょうか。
桜井氏ら研究チームは、この点を調査することにしました。
研究では、関東在住の9000名(若年者[20-39歳]3,000名、中年者[40-59歳]3,000名、 高齢者[60-79歳]3,000名)を対象にインターネット調査を行いました。
そこではいくつかの質問票が用いられ、独り好き志向性、社会的孤立、精神的な健康状態の関連性を分析しました。
ここでいう「社会的孤立」とは、一緒に住んでいない家族や親戚、友人や近所の人とのコミュニケーション(対面や電話、メール、手紙を含む)の頻度が、週1回未満の状態を指します。
また精神的な健康状態は、参加者のウェルビーイング(生活や人生における満足度・幸福度。「WHO-5」を指標とする)、悩み・抑うつ傾向、主観的孤独感を元に測っています。
加えて、「他者との付き合いの煩わしさ」の程度を調査し、それが精神的な健康状態にどのような影響を及ぼすのか検討しました。
その結果、たとえ独り好きであったとしても、孤立による精神的健康度の悪化は緩和されないと判明しました。
それどころか、全世代を通じて、独り好きの社会から孤立している人がもっとも精神的な健康度が低いという結果になったのです。
これは独り好きの方が、精神的健康を悪化させやすい可能性を示示しています。
どうやら「独りでいることが好きだから、社会的に孤立していても健康でいられる」というのは誤った認識のようです。
ニュアンスが似ているために混同されがちですが、「独りが好き」という特性と、「社会的孤立」という状態は異なる概念です。対人問題から独りでいることを自発的に選んだとしても、それが社会から孤立する状況を生んでしまうと、話が変わってきます。
「独りでいた方が楽だ」と感じていても、それは仲間がいる上で独りになることに対してなのであって、社会的に孤立してしまえば幸福感や喜びが薄れ精神的な健康を害する結果を生んでしまいます。
また、今回の研究からは、独り好きが人付き合いの煩わしさから生じる可能性が高いことも示されました。
独り好きにも様々な理由(自分の趣味に没頭したいなど)があるでしょうが、「人付き合いの煩わしさ」から独りでいる時間が長くなっている場合は特に注意が必要かもしれません。
たとえ人付き合いが苦手だから独りでいることを選んでいたとしても、頑なに孤立した状態でいないように、ある程度誰かと繋がりを持っておくことが幸福のためには大切なようです。
参考文献
<プレスリリース>「独り好き」志向性とこころの健康 ―「独りでいることを好む人」でも孤立の悪影響は緩和されない可能性が明らかに―
https://www.tmghig.jp/research/release/2024/0904.html
元論文
Preference for solitude paradox: The psychological influence of social isolation despite preference
https://doi.org/10.1016/j.jad.2024.08.020
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部