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老化による変化は、細胞やDNAなど生物学的なもの以外に、行動の変化となって現れることが知られています。
たとえば人間の場合、年を取るにつれて生活様式が固定化し、同じような場所で同じような行動を続けがちになります。
また同様の固定化は思考パターンや好みにも起こります。
若い頃は新しい思想や概念に敏感でしばしば転向を繰り返してきた人々も、年齢と共に固定され、新しい思考パターンを採用するのが難しくなっていきます。
しばしば老人が頑固と見なされてしまうのも、背後にはパターンの固定化が影響していると考えられます。
また昔は色んな音楽を探して、好みの曲を組合わせてマイリスト作りに躍起になっていた人も、最近の音楽については興味を示さなくなってしまいます。
さらに交友関係の幅広さが失われ、限られた交友関係の中に身を置きがちになります。
量より質に目覚めただけならば、限られた交友関係も中身の入れ替わりが起きるはずですが、実際には人員の固定化が進行してしまいます。
老人に新しい親友ができないわけではありませんが、若い頃にくらべてその頻度は著しく低下しています。
このような変化は「加齢による行動変化」の一種として知られており、どの文化や宗教に属するかにかかわらず、人間全体にみられる現象として知られています。
ただこのような加齢による行動変化が巨大な脳を持つ人間特有のものであるか、あるいは他の種にも当てはまる共通現象であるのかは、不明なままでした。
そこで今回、テルアビブ大学の研究者たちは、比較的長命な鳥類として知られるシロエリハゲワシを観察することで、加齢による行動変化がハゲワシたちにも現れるかを調べることにしました。
他の種にも人間のような加齢による行動変化が現れるのか?
調査を行うにあたり研究者たちは、長年にわたりGPSで位置が特定されてきたシロエリハゲワシのデータに着目しました。
シロエリハゲワシは15年以上もの比較的長い寿命を持ち、高い社会性を持つ鳥類として知られています。
テルアビブ大学があるイスラエルにおいてシロエリハゲワシは保護の対象となっており、15年間に渡り生息数の3分の2に及ぶ142匹についての移動データが保存されていました。
研究者たちはこのデータを分析することで、年齢を重ねたハゲワシたちにどのような変化が起こるかを調べることにしました。
「位置データだけで何が解るのか?」と疑問に思うかもしれません。
しかしそこはハゲワシたちの生態を知れば納得できるでしょう。
シロエリハゲワシたちは死骸を見つけると、その近くにねぐらを陣取り、数日間にわけて餌を食べ続けます。
またねぐらは一種の「情報ハブ」として機能しており、ハゲワシたちは仲間について飛んでいくことで死骸の位置を常に把握できるようになります。
その過程で親しい個体同士はねぐらを共用しやすくなり、敵対関係にある個体同士では時には追い出しも行われます。
そのためあるハゲワシがどのねぐらを使用しているかを調べることで、行動パターンや一緒に行動する頻度の高い個体(親友)の特定も可能になるのです。
そして分析の結果、ハゲワシの行動パターンや交友関係は人間と同じく、若い頃はバリエーションに富んでいたものの、年齢を重ねるごとに固定化していくことが明らかになりました。
たとえば5歳以下の若いハゲワシは頻繁にねぐらを変え、同じ場所で2晩過ごすことはほとんどありませんでしたが、老齢になるにつれ彼らは自宅といえるホーム拠点に引き籠るようになりました。
また引き籠りに連動して交友関係も偏り、特定の個体と過ごす時間が著しく増加していきました。
具体的には、最も親しく交流する個体(親友)の数は若い頃と変わりませんでしたが、雑多な知り合い(広い意味での友達)と交流する時間が大幅に減少していたのです。
研究者たちも「老齢のハゲワシは自分のやり方に固執し、社会的関係が弱くなっている」と述べています。
この結果はハゲワシにも加齢による行動変化が存在しており、老齢のハゲワシたちは老齢の人間と同じように、行動パターンと交友関係の固定化を引き起こしていたことを意味します。
加齢による行動変化が起こる理由については脳や体の老化が主な原因であると考えられています。
たとえば老化が進行すると記憶力、注意力、意思決定能力の低下を起こすことが知られています。
その結果、高齢者は新しい情報を学ぶのが難しくなり、以前の方法を繰り返すという選択をしやすくなります。
また認知機能に加えて身体機能が低下すると、物理的な行動範囲が限定され、社会的な交流範囲が狭まってしまいます。
細胞レベルでは、ニューロン間の接続を担うドーパミン、セロトニン、アセチルコリンなどの神経伝達物質のレベルが変化することが知られています。
これらの化学物質は、気分や動機付けにおいて重要であり、そのバランスが崩れることで行動面での変化が起こるとされています。
また加齢はシナプスの可塑性を低下させ、新しい情報の習得を困難にします。
こう書くと、年齢を重ねることに恐怖を感じる人もいるでしょう。
そのため最後に興味深い研究結果を紹介します。
この研究は年齢と幸福度の関係が調査したものとなっています。
加齢による行動変化の話を聞いた直後では、幸福度も老化と一緒に増加していくと思うでしょう。
しかし実際に調査を行ってみると、最も幸福度が低いのは30代前後の比較的若い時期であり、全体的な幸福度は幼年期と老齢期が最も高いことが示されました。
つまり人間の幸福度は年齢に対してU字型をとっていたわけです。
もしかしたら、自分のお気に入りの場所で自分と気が合う長年の親友と過ごすことになる加齢による行動変化には、老齢期の幸福を増加させる効果があるのかもしれません。
参考文献
Like people, vultures get set in their ways and have fewer friends as they age
https://newsroom.ucla.edu/releases/vultures-age-get-set-in-ways-fewer-friends-like-people
元論文
Behavioral plasticity shapes population aging patterns in a long-lived avian scavenger
https://doi.org/10.1073/pnas.2407298121
ライター
ナゾロジー 編集部
編集者
ナゾロジー 編集部