プラスチックは、それが放出されたり廃棄されたりする場所で環境、生物に害を与え、それ自身は分解しないため、何世紀とは言わないまでも何十年もの間、環境中に残留します。

この問題に対処するため、オランダの非営利団体であるオーシャン・クリーンアップは、文字通り海からプラスチックごみを「すくい取る」ことで、海洋や河川域に存在するプラスチックの浄化を行っています。

海から全てのプラスチックを回収することは、簡単なようで非常に複雑な課題であり、これらに使用する船から排出される膨大な二酸化炭素量や、意図しない海洋生物の捕獲による被害の可能性など、逆に考慮すべき点が多くなっています。

この浄化技術がどれほど効率的で、環境や生物にどのような影響を与えるのか、プラスチック汚染の長期的リスクという観点から、ユトレヒト大学(オランダ)等による研究がなされています。

研究の詳細は、『Frontiers in Marine Science 誌』の2021年6月3日号に掲載されています。

目次

  • 海、河川に存在するプラスチックとその対応策
  • 人体に与える影響

海、河川に存在するプラスチックとその対応策

1907年に初めて使用されて以来、プラスチックは私たちの地球とその生態系に生息する全ての生物に対して、静かにその悪影響を強めてきました。

プラスチック廃棄物の約3分の1が自然界に投棄され、アメリカではわずか9%しかリサイクルされておらず、既に海洋には7500万トンから1億9900万トンのプラスチックが存在します。

海中のプラスチックはいたるところに分布しており、その大部分は循環する環流(ジャイア)の影響でそのループの内側に集中しています。

このようなジャイアごみパッチ(ごみの集積箇所)は5箇所あり、最も有名なのは160万平方キロメートルに及ぶ太平洋ごみパッチであり、その他、インド洋に1つ、大西洋に2つ、太平洋にもう1つ存在します。

北太平洋環流(ジャイア)の例-中央部に巨大なごみパッチが形成される / Credit : ja.wikipedia

これらのごみパッチに巻き込まれた浮遊プラスチックは、より小さな破片に分解されるまで循環し続けるため、清掃はますます困難になります。

ビニール袋は、アカウミガメの大好物であるクラゲとよく間違えられたり、アホウドリはプラスチックの樹脂ペレットを魚の卵と勘違いしてヒナに食べさせ、その結果、ヒナはやがて餓死するか、臓器破裂を起こすことが生じています。

調査によると、太平洋ごみパッチに渦巻く大規模なプラスチックごみのほとんどは数十年前のものですが、最近生産されたプラスチックは海岸線に近い場所に残っていることが判明しています。

非営利団体オーシャン・クリーンアップの目標は、海に漂うプラスチックごみの90%を除去し、太平洋を「ごみのない海」にすることです。

太平洋ごみパッチから System-002 でプラスチックを回収する非営利団体 Ocean Cleanup / Credit : The Ocean cleanup

その最新かつ最も機能的な浄化技術であるSystem-002は、深さ3メートル、大きなUの字を描く浮遊ネット(回収網)で構成されています。

しかし、見過ごされているのは、この回収網を引っ張るために使用される大型船が、かなりの二酸化炭素排出量を持っているということです。

化石燃料を動力源とする巨大な船で海水中の網を引きずることは、大気汚染と気候汚染に拍車をかけることになります。

彼らの環境影響評価報告書によれば、オーシャン・クリーンアップが運航する2隻の船は、1カ月の清掃活動で600トンの二酸化炭素を排出しています。

科学者たちは、この採集技術が、太平洋の表層に生息する生物相の一種であるニューストン(水表生物)に与える影響について懸念を表明しています(本研究は、オーシャン・クリーンアップによる委託研究として実施)。

カニ、タツノオトシゴ、クラゲ等は全てこのニューストンの一部であり、正常な環境下では生物群の中での食物連鎖に不可欠な存在として、様々な海洋生物群の間で重要な生態学的繋がりを構成しています。

例えば、ニューストンは大西洋のタラやサケなどの稚魚の育児場として機能し、アカウミガメのような絶滅危惧種の主要な食料源となっています。

しかし、これらニューストンは、不幸にもプラスチック廃棄物の浮遊域に生息していることが多くなります。

このことにより、混獲(プラスチックを回収する際に海洋動物を捕獲すること)の問題が生じ、浮遊するプラスチックは、魚やカメなどの海洋生物を巻き込まずに水からすくい上げるのが難しく、水中に投げ戻しても、これらの生物のほとんどは死んでしまいます。

魚網に絡まった生物は、傷つくことで、動きが制限されたり、採餌能力が低下したりすることで深刻な被害を受けることになります。

一方、世界の河川系に目を向けると、現在、年間115万トンから241万トンのプラスチックを海洋に排出し、海洋プラスチック汚染の約240万トンを占めています。

海洋プラスチック汚染の原因を抑制するため、オーシャン・クリーンアップはさらに、プラスチック汚染された河川の河口にインターセプターと呼ばれる太陽光発電船を配備しました。

河川のごみは水流に乗って中間的な集積所に一旦集められ、ベルトコンベヤーを経て船内に投棄され、ゴミ処理施設に運ばれます。

既に8基のインターセプターが、ドミニカ共和国、ジャマイカ、ベトナム、インドネシア、マレーシアの河川から220万ポンド以上のプラスチックを回収しています。

上記のとおり、非営利団体のオーシャン・クリーンアップは、海洋だけでなく、河川域でも最新技術を用いたプラスチックの回収を積極的に続けていますが、同時に環境や生物への影響についても自身による委託研究の結果を踏まえ、環境保護を考慮した回収技術の模索を継続しています。

人体に与える影響

魚類や鳥類がマイクロプラスチックを誤って食べると、消化器系の障害や栄養吸収の妨げ、さらには生殖能力の低下などを引き起こす可能性があります。

また、これらの影響は食物連鎖を通じて広がり、最終的には人間の食品安全性にも影響を及ぼす恐れがあります。

指についたマイクロプラスチック / Credit : Canva

マイクロプラスチックは、海洋の食物連鎖以外にも食品や水、空気を通じて人体に摂取される可能性があり、例えば、粒子が消化器官や血液中に入り込むことで内分泌系や免疫系の乱れを招き、アレルギーや炎症反応を引き起こす懸念が指摘されています。

ボトル入り飲料水や水道水を含む飲料水は、人間の食生活におけるプラスチックの最も大きな原因であり、WWF(世界自然保護基金)が裏付けた2019年の報告書によれば、平均的な人は毎週約1,769個の小さなマイクロプラスチック粒子を摂取しています。

マイクロプラスチックの人体への直接的な影響はまだ完全には解明されていませんが、医学誌『Environmental Science &Technology』に2024年3月に掲載された研究では、血管内にたまったマイクロプラスチックと、心臓発作(心筋梗塞)、脳卒中、死亡のリスクの関連性が初めて言及されており、人体への潜在的なリスクは今後の課題となっています。

プラスチックの海洋汚染は深刻で早急に解決すべき問題ですが、上記のとおり人体へのプラスチックの摂取経路は海洋だけでなく多岐に亘ることから、もはや無視できる状況ではありません。

排出済みのプラスチックに対する決定的な対応策の模索が続く現在において、海からプラスチックを回収するための最善のアプローチは、回収する部分に焦点を当てるのではなく、プラスチックの元々の発生源に焦点を当て、可能な限り代替品を使い、再使用及び再利用を促進する等、当面は私たちの地道な活動が重要となっています。

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参考文献

Can We Scoop Out All The Plastic From The Oceans?
https://www.scienceabc.com/nature/can-we-scoop-out-all-the-plastic-from-the-oceans.html

元論文

Relative Abundance of Floating Plastic Debris and Neuston in the Eastern North Pacific Ocean
https://doi.org/10.3389/fmars.2021.626026

ライター

鎌田信也: 大学院では海洋物理を専攻し、その後プラントの基本設計、安全解析等に携わってきました。自然科学から工業、医療関係まで広くアンテナを張って身近で役に立つ情報を発信していきます。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 海から全てのプラスチックの回収は可能か?私たちの体内にまで入り込む有害物質