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売り主に「これは何か?」と聞いてみると、「植物の一種が保存されていて、アクセサリーとして売りに出している」と答えたといいます。
古生物の専門家ではない売り主にはどうやら植物に見えたようですが、リダ氏からすると明らかに植物ではありませんでした。
むしろ、鳥の羽毛に似た何かに見えたのです。
そこでリダ氏は琥珀を買い取って研究室に持ち帰り、CTスキャンを用いて詳しく調べることにしました。
調査の結果、琥珀に保存されていた茶色い物体は、約9900万年前に存在した恐竜の「尻尾断片(長さ37ミリ、椎骨が8個)」であることが判明したのです。
その恐竜の種類も羽毛を持つ「コエルロサウルス類」の一種であることが特定されました。
大きくなればダチョウほどのサイズまで成長しましたが、琥珀に保存された尻尾の持ち主はまだ幼体だったらしく、全体でもスズメ程度の大きさしかなかったと見られています。
体が小さくて弱かったため、樹液に捕まったまま動けなくなったのかもしれません。
あるいはすでに瀕死か死体になっていたところを樹液に飲み込まれた可能性もあります。
こちらが琥珀に囚われたコエルロサウルスの幼体の復元像です。
また鳥類との違いもはっきりと見分けられています。
研究者によると、鳥類の「尾椎骨(びついこつ)」は互いに癒合して「尾端骨(びたんこつ)」という一つの骨を形成し、尾羽をまとめて動かせるようになっていますが、琥珀標本にはそれがありませんでした。
代わりに尾椎骨の関節がちゃんと分かれており、しなやかに可動したと見られることから、明確に恐竜の尻尾と断定されています。
また琥珀の中で3次元的に保存されていたおかげで、恐竜の尻尾の羽毛の構造をつぶさに観察することができました。
ここでも鳥類の羽毛と大きな違いが見つかっています。
鳥類の羽根の一枚一枚には、中央に「羽軸(うじく)」という硬い棒状の軸が走っています。
そして羽軸から左右に枝分かれした細い羽毛が「羽枝(うし)」であり、その羽枝からさらに左右に枝分かれしたより細い羽毛が「小羽枝(しょううし)」です。
この構造により、鳥の羽は風切羽として空を飛ぶための機能を果たすことができます。
(小羽枝の先端はフック状になっており、一枚の羽根の形をまとめる役割も担っている)
ところがコエルロサウルスの羽毛には羽軸がなく、柔らかい羽枝と小羽枝だけで構成されていました。
この特徴は鳥の風切羽よりも「飾り羽」に似ていることから、コエルロサウルスの羽毛には仲間への合図やコミュニケーションのために使われた可能性が高いとのことです。
琥珀標本がまだ幼体であったため、大人になったらどのような羽毛になったかは分かりませんが、おそらく空を滑空するための用途はなく、異性へのアピールや体温調節に使われたのではないかと推測されています。
このように、恐竜の軟部組織が生きていた当時のまま化石化した例は極めて稀であり、この琥珀標本は貴重なサンプルとして話題になりました。
恐竜の化石は歯や骨が見つかることがほとんどですが、筋肉や羽毛、臓器などの軟部組織が回収できれば、彼らの生態をより詳しく明らかにできます。
琥珀は基本的に小さなものなので、その中で保存できる化石のサイズには限界がありますが、古生物の生き姿を留める貴重なタイムカプセルとして研究者たちは大きな関心を寄せ続けています。
参考文献
Amber specimen offers rare glimpse of feathered dinosaur tail
https://www.eurekalert.org/news-releases/715649
This Beautiful “Plant” Trapped In Amber Turned Out To Be A Dinosaur Tail
https://www.iflscience.com/this-beautiful-plant-trapped-in-amber-turned-out-to-be-a-dinosaur-tail-75679
元論文
A Feathered Dinosaur Tail with Primitive Plumage Trapped in Mid-Cretaceous Amber
https://doi.org/10.1016/j.cub.2016.10.008
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部